第六話 亀のたーくん

「たーくん、お久しぶりー元気だった?」



 タロウは、召喚された亀に話しかける。どうやら、知り合いのようだ。

 たーくんはタロウを見るなりぎょっとして



「げっ、お前は浦島太郎!!」



 と言い、器用に後ろへ後ずさりした。

 まさかこれが召喚された使い魔なのだろうか……。どうみても少し大きめなウミガメだ……。



「どうしたんだいたーくん。話を聞いておくれ」

「うるせー! てめえのせいで俺はまたこっ酷く叱られたんだぞ! 至る所で問題起こしやがって!どうせ今回も碌な事じゃないんだろ!!」



 たーくんはぷんぷんと怒っている。

 一体何をそんなに怒っているのか……恐らくタロウが何か為出かしたのだろう。



「貴方……元の世界で何したのよ」

「何もしてないと思うけど。もしかしてたーくんじゃないのかな」

「たーくんだよ!! 俺はタラスクだ!! お前浦島太郎だろ!? 海辺で出会った俺を見るなりすっぽんの血は体に良いとか言って捕まえようとした挙句、海中まで半ば強引についてきた後、竜宮城で食っちゃ寝して暮らしてた浦島太郎だろ!?」

「あっちはよく知ってるみたいだけど」

「元気そうで良かったよたーくん」

「あー元気だったよ! じゃあな!」



 たーくんことタラスクは空中にプカーっと浮くとすいすいと空中を泳いで行ってしまう。

 まさか亀が浮いて飛べるとは。私もまだまだ勉強不足ね……。


「亀って浮けたのね……じゃなくて! せっかく召喚したのにいいのあれ!?」

「良くないさ。よっ……!」



 タロウは釣り糸をヒュンと投げて、タラスクの甲羅に釣り針を引っ掛ける。

 軽く引っ張り、タラスクがこっちに引っ張られてくる。

 タラスクは、反転しそのままこっちに戻ってきた。



「おかえり」

「おかえりじゃねえよ! 無理やり連れ戻したんだろ! 人に釣り針ひっかけんなよ痛いだろ!!」

「はっはっは、たーくんは人じゃないでしょ」

「言葉の綾だよ! 全く毎度毎度お前は……」



 亀が人に説教している。

 しばらくタラスクの話が続くが、今は時間がない。私はタラスクに話しかけてみた。



「ちょっと待って! こんな事してる場合じゃないのよ!」

「んん? なんだこのお嬢さんは……と言うかここどこだ?」

「今更!? 私はウラク、タロウを召喚した主人よ。落ち着いて私の話を聞いてくれるかしら? あんまり時間がないの」

「何やら凄い厄介事の予感……あの、帰らせて貰っても?」

「ダメ」

「はい……」



 自分でもびっくりするくらい凄い剣幕でタラスクを大人しくさせた後、私は事情を説明した。

 タラスクは割りと真面目に話を聞いている。タロウの時とは大違いだ。



「なるほどな……事情はわかった。つまりこの太郎が国を作って他の悪魔? 共と戦を行うと」

「そうよ、理解が早くて助かるわ」

「では、それがしはこれで」

「ちょっ!?」



 タラスクは再び逃走を開始する。

 タロウは再びタラスクを釣って戻した。



「ふざけんな!! コイツが皇だと!? 流浪して釣りばっかして、その上ガキの癖にナンパばかりしてるこいつが!? ありえん! 数日で崩れるね! お嬢さん、運が悪かったと思って諦めてくれ!」

「酷いなぁ、たーくんに助言をもらいつつやればきっとやれるって! ウラクもやる気満々だよ?」

「私は命がかかっているのよ! それにここで挽回できなきゃ一生下っ端よ。亀さん、お願いだから協力して?」

「いーやーだーねー」



 私は必死にお願いする。何せ、これに負ければ今後一生好機はない。

 それに、やる前から挫折するなんて嫌だ。納得できない。

 タロウはしょうがない、たーくんにやる気を出してもらおう。と言ってタラスクを説得し始める。



「たーくん、ここは元の土地とは全く違う場所で、僕はウラクに、君は僕に召喚されたのはわかるね?」

「あ? それがなんだってんだ……」

「落ち着いて考えてみて……、乙姫さまとの念が絶たれているんじゃないかい?」

「む、言われてみれば……」



 その乙姫様とは、タロウが入り浸っていた竜宮城という城の主らしい。

 その配下へは自由に意思疎通がとれ、好きな時に指示が出来ていたという。



「つまり、君は今……乙姫さまから何も言われない。何をしても咎められないんだ……その意味、頭の良いたーくんなら

わかるよね?」

「! ……なるほど、そういう事か……」

「ふっ……」

「ふふふ……」



 タロウとたーくんはニヤリと笑う。

 乙姫様の監視から外れたタラスクはなんの制約も受けない。

 つまり……



「好きな所行き放題! 女の子と遊び放題! 美味しいものだって許可なく食べれる! そう、僕の国ならやりたい放題さ!!!」

「Yeahhhhhhhhhhhhhhh!!!!!!」

「Yeahhhhhhhhhhhhhhh!!!!!!」



 パァンと二人は手を上に上げてハイタッチし、踊り始める。

 どうやらとても魅力的な事らしく、タラスクは一気にテンションが上がった。

 彼にとって、乙姫様の干渉が無くなるというのはとても重要な事らしい。

 余りにもテンション高いので若干引いている。



「やる気出てきたァァァァ!!!! おいお嬢! この話乗ったぜ! この戦い、タラスク様が協力してやる!」

「どうやら協力してくれるみたいね、ありがとう!」



 私はタラスクに感謝する。

 なんにせよ、協力してくれるみたいでよかった。

 だが私は、彼が普通の亀だと思い出し項垂れる。



「と言っても、亀が何か出来るのかしら……」

「ハッ、おいおいお嬢、自身を魔の物と語りながら、見た目だけで判断しているのか?」

「魔物じゃなくて、悪魔よ悪魔。まぁ悪い事はしてないつもりだけど。で、実際普通の亀さんではないのかしら? なんかさっき浮いてたけど」

「ウラク、彼の能力を覗いてごらんよ。少しは気が休まるんじゃないかな」

「そんなに自信があるのね? どれどれ……」



 私はタラスクのの甲羅に触れる。固くて立派な甲羅だ。別段ヌルヌルしているわけでもなく、不快感はない。

 タラスクはむず痒そうにしていた。



「久々に竜宮以外の女の子に触られた……。これだけでも前は怒られてたのに今は何も言われないなんて。異世界転移、最高」

「気が抜けるから変なこと言わないで……。えっと、名前はタラスク、種族は……え」



 私はタラスクの能力を確認し、驚いた。

 彼の種族、亀だと思っていたが実は……



「貴方ドラゴンだったの!!?」

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