第五話 釣りが好きな少年
「どうしたんだい? 大丈夫かい?」
「終わった……私の悪魔人生はここで幕が降りるんだわ……」
私は地に座り込む。ただの子供を召喚してしまうとは……。
これでは一瞬で倒されてしまう。一体どうやって国を作ると言うのか。
タロウは頭をポリポリと掻いている。
「僕もそれなりに旅をしてきたけど、これだけ困惑する状況は滅多に無いなぁ、はっはっは」
「全然困惑してないじゃない!」
「おお、突っ込む余裕はあるみたいだね!」
落ち込んでも仕方がないので、私はタロウに事のあらましと、今の状況を説明した。
タロウが王となり、他の悪魔たちが創った次元を収める王と戦う。
それを聞くとタロウは、どこの世も戦は行われているんだなぁ……世知辛いねぇ。と世知辛くなさそうな軽い表情で言う。
「それで、僕を呼んだの? 僕は釣りしかできないよ?」
「そうみたいね……私は貴方のスキルとアビリティが見れるからすぐにわかったわよ」
「そうか、僕にも見れるかな?」
「ん、やってみれば?」
タロウは目をつぶり、意識を集中させていく。
それにしても、女の子みたいな顔をしている。目をつぶって無表情だと顕著だ。
可愛い……こんな時じゃなかったら頭を撫でて愛でている所だ。
タロウは自分の能力が確認できたようで満足そうに頷いている。
「……そうか!! 僕と君は民だから、きっと惹かれ合ったんだね」
「なんでそんなテンション高いのよ! そうね……きっとそうなのよね……」
「さっきから暗いなぁ。お姉さんは明るく笑ってた方が可愛いよ?」
「貴方は随分と明るいのね……さっき言ったでしょ? これから戦争が始まるのよ? 王になる貴方もきっと、ひどい目に合うわ。勝手に呼び出しておいてこんな仕打ちで申し訳ないけど……」
召喚は、対象の意志に関わらず強制的に呼び出すことが出来る。
私はタロウを呼び出して、いきなり王になれというのだ。普通の人間……しかも子供なら、困惑するところだろう。
だが、タロウは全然驚いたり、困惑していない。むしろ楽しそうに私の話を聞いていた。
「王様。要は皇帝って事だろう? 面白そうじゃないか。一回やってみたかったんだ。やるからには本気でやるよ」
「貴方……本気なの? 他の次元を見たことがないからまだわからないのかもしれないけど、相手は恐ろしい力を持っているかもしれないのよ。しかも人型ですらない、化物や魔物、下手すれば神様だっているかもしれないのよ!?」
「うーん。まぁなるようになるでしょう!」
「かるっ!? 絶対ならないでしょっ!?」
私はつい大声で突っ込んでしまった。
全くこの子はなんだというのか。これだけ軽いと悩んでいる私が馬鹿らしくなってくる。
確かに悩むのは性に合わない。こうなったら行けるところまで行ってやる。この程度で私の500年を無駄にさせるわけにはいかないわ。
「ああもう! わかったわ、やってやるわよ。貴方と一緒に全部ぶっ倒してやるわ!!!」
「おお、ヤケになってるね。でも、暗いより幾分マシだね。よろしく、ウラクお姉さん」
「ウラクでいいわ。私も貴方をタロウと呼ぶから。それでいい?」
「うん、いいよ。よろしくね、ウラク」
「ええ、アレだけ大口を叩いたんですもの。辛いからって途中で投げ出さないでね、タロウ。」
かくして私とタロウは、一緒に国を作るために結託した。
私は少ない時間を使い、出来得る限りで、様々な国の運営や文化を頭に入れていった。
タロウは僕好みにできるなら、是非とも釣りの環境は常に整えておきたいなぁ。などと呑気なことを言っている。
そして、パンデモニウムの集会から三日が経過した。
悪魔たちは各々、サタンからの念話を待っている。
三日という期間で、召喚された者の事をどれだけ理解できるかでいいスタートを切れるかが決まってくるのだが。
「あーたいくつー ねえウラク、まだなの?」
「まだよ。大人しくして待ちなさい。貴方が下手に次元移動すると、体がねじ曲がって存在が歪んでしまうわよ?」
「一回それ試してみたいな。でも手足は大事だから……左の小指とかどうかな?」
「どうかな? じゃなくて絶対にやめなさい」
私とタロウはそんな冗談を繰り返すだけだった。
まぁ……私も勉強以外は、剣を振っているだったのも悪かった。だってグレモリーや先代以外とは話したことがないから……。
だが、多少は親睦を深めていると……思う。それに、国を作るにも次元の欠片がないとどうしようもないのだ。
そして、ついにその時は来る。
「あーあー、……皆お疲れさま! どうだ? ちゃんと召喚できてるかな! なんか数人ほど念話が届かないものがいるね?召喚に失敗してやられてしまったかな?」
「おっきたきた。僕にも聞こえるよ」
「既に数人脱落しているのね……本当に命がけだわ」
サタン様からの念話が届く。
中には、召喚時にいきなり斬り殺された悪魔もいるらしい。恐ろしい……。
僕はまったり系なのでそんな事はしない。そもそも女の子は手を出されない限り絶対優しく扱う。と、タロウが言っている。
マセた子供である。
「じゃあ早速ゲームを開始する……と言いたいところだけど、その前に数点、ルール追加します!」
「はい?」
「この声、可愛いなぁ……」
「私も最初思ったわ。……じゃなくて、ほんと呑気で良いわね貴方……」
いきなりのルール追加。見切り発車の催事には良くある事だ。
一体何を追加するというのか。私はサタン様が話すのを待つ。
タロウは、僕の第六感が超絶美少女だと告げている。と浮かれて話している。この子、可愛いナリして女の子好きなのね……。
「まず、召喚された者達! 私は天の声だとでも思って聞いてほしい。まず、主人の悪魔から君たちへ召喚術のスキルを移したよ。確認してみてほしい」
「えっ、いつの間に!?」
「あはは、天の声だって。愉快な人だなぁ」
私のスキルを確認すると、そこに召喚スキルはなかった。
そしてタロウのスキルを確認すると、そこには特異召喚術のスキルが。
「更に、その召喚術を二回使える権限を与えたよ! 本来は一回限りで行こうと思ったんだけど、よくよく考えたら王様一人じゃ何をするにも難しいからね……王の配下ってやつさ」
「僕の部下かぁ。釣った魚の管理でもしてくれるのかな」
「国のために呼び出してね……本当に。頼むわよ」
「はっはっは、冗談だよ。今風に言うとジョークってやつさ」
本当なのか冗談なのかわからない所が恐ろしい。
それに、タロウが召喚するという事は、対象は人か民……という事になる。
「では、今から召喚を行ってほしい。一時間後くらいにまた念話を送るから、頑張って生き残ってね!」
「また命懸けの召喚が始まるのね……」
そして、念話が終わる。
1時間の内に召喚された者と話をつけ、王の配下にしなければならない。
となると、1時間はそれを行うにあたりかなり少ない。私とタロウは早速、召喚を始める。
「よーし、早速やるぞう! 一回目は既に誰を呼ぶか決めているんだ。詠唱……ていうのはこの間ウラクが話してた奴でいいんだよね?」
「ええ、覚えているのね。と言うか、その召喚術じゃ誰を召喚するか決められないわよ?」
「大丈夫、僕ならきっと呼び出せる」
「すごい自信ね……」
「フフッ、この僕が魔を操るとは、小気味良い。楽しくなってきた」
タロウは詠唱を始める。すると、辺りの空気が変わった。凄い集中力だ。
手を翳すと地面に魔法陣が浮き上がる。
「――我が其の能才を通し、召喚に応じよ。コントラクトサモン!!」
そして、強烈な光が放たれる。
光はどんどん溢れて、形作っていく。
しばらくすると光が収まり、そこには……
「あ? どこだここ……俺は一体、どうなっちまったんだ……」
一匹の亀がいた。
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