第46話 殺人的正義

見渡しの良い、炎天下の砂漠地帯。

頭上から巨大な剣が落ちてくる。

それはあまりにも凶悪な存在感を発揮していた。


「ミレナ!!壊せそうか!?」

「やってみます。水上級魔法『水激砲アクアカノン』!!」


ミレナがそう唱えると、あの剣と同じぐらいの巨大な渦巻が現れた。

そしてそれは渦の真ん中を中心に尖ったスピアのようになり大剣の下へと向かっていった。


それが大剣にぶち当たると水しぶきをあげて消えてしまった。


「…すみません。」

「くそっ!!」


どうする。どうすればあの剣を防げる?

タイチは、必死に考えた。


その時、ナッシュとの会話が脳裏によぎる。

古代魔法。…現代魔法の基礎となった魔法。

それはつまり、魔法なら全て使う事が出来るはずという事。


「あの剣を模倣しろ!!古代魔法!」

体から何かが急激な速度で抜き取られていくのを感じる。

そしてそれが収まった時、眼前に真っ黒な剣型の塊が生まれた。


その塊が大剣へと当たり爆発した。

「やったか!?」

「まだです!!でもこれくらいなら…」


ミレナが手をかざし、何かを唱えた。

一瞬ミレナの手が別の物に見えたが、単なる気のせいだろう。


すると、爆発した大剣に亀裂が入り砕け散ってしまった。


「やったぞ!!」

「……」

ふと、ミレナを見ると物凄く険しい顔をしていた。

「どうしたんだ?まだ何か来そうか?」

タイチは、ミレナに問いかける。


「……逃げてください。多分、いえ確実に勝てない相手が来ます。」

ミレナはただそう言って、視線を目の前から逸らさない。


「へえー。そこの女の子はよく分かってるね。」

突然だった。目の前にふらっと人影が現れたのは。

その人影は、黒髪だった。

そして、何よりタイチがよく知っている人物だった。


なにせ…

「…高坂。」

高坂哉斗こうさかかなと。タイチのクラスメイトなのだから。


クラスの中でも別格の存在だった男、高坂。

人に優しく、みんなの為に何かを進んでやる奴だった。


「…なんで、俺達を殺そうとした。」

少なくとも高坂はこんな事を平気でする奴じゃなかった筈だ。

だが、この状況で高坂がやってないなんて馬鹿な話は無いだろう。


すると高坂は頭をこちらに下げてきた。

「竜崎君。この国を出て行かないで欲しい。このとおりだ。」

「なっ!?」

タイチには理解が出来なかった。


「君達がこの国をよく思ってないのはよく分かってる。だから僕は竜崎君に王宮に戻れなんて言わない。…桜野君のこともあるだろうし。」


!!!!!?なぜ、高坂がその事を知っているんだ。

タイチは驚いて声を失った。


「あぁ、別に君達を責めてる訳じゃないよ。あの状況なら仕方がないと思う。だからその事が理由で国を出ようとしてるなら心配しなくていい。」


僕が手配してあげる。と、そう最後に付け足した。


「別に、その事だけが理由じゃない。単にこの国に見切りをつけた。それだけだ。…逆になんでお前は俺たちを留めさせたいんだ?」


そこが何よりも分からなかった。

急にタイチ達を殺そうとして、かと思えば頭を下げて国に居続けろという。

…そもそもなぜ殺されそうになったのか。

逆に今は殺そうと思えば、タイチ達をすぐに殺せるはずなのにしない。

高坂の考えている事が全く分からなかった。


「正義の為だよ。少し先の未来、この国と他の国とで戦争になるだろう。あの王様じゃやりかねないからね。」

「は!?だったらなんでお前はこの国の味方をやってるんだよ!」

「だからこそだよ。勇者の力が集まれば、戦争なんてすぐに終わらせれる。その方が平和なんだよ。」


「……何を言ってるんだ?」

タイチには理解が出来なかった。高坂の言ってる事が分からなかったのだ。言語的にではなく意味的に。

…それは人を多く殺して支配しようという事じゃ無いのか?

別に人を殺すことが絶対にダメだなんて綺麗事を言うことは出来ない。事実人を殺さなきゃいけない事だってあった。


それでも、能動的に人を殺すのはワケが違う。

人を殺す事に対する認識があまりに軽くなりすぎている。


「僕達がこの世界に呼ばれた本当の意味を考えたんだ。そしたら自然とこの答えにたどり着いたんだよ。」

「…俺には全く理解が出来ない。出来そうにもないよ。」

「…そうなんだ。まぁそれは別にいいよ。いずれ分かってくれるだろうから。話を本題に戻そう。この国に留まってくれるよね?」


そう言って、高坂は手をこちらに差し出してくる。

タイチは、ミレナを見、馬車に乗っているリル、ルルの方を見た。


そして…

「お断りだ。」

パシッと高坂の手を払いのけたのだった。

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