第47話 交渉決裂

手を払いのけられた高坂は信じられないという顔をしていた。

「…どういうことだい?」

「悪い。もう俺は勇者がどうとかお前らがどうとかどうでもいいんだよ。」

そう言って、ミレナ、ルリ、ルルを見る。

「俺には仲間がいるんだ。成り行き上の仲間だけど俺は彼女達の責任をおわなきゃならない。」


すると、高坂はゆっくりこちらの出方を伺うように穏やかな声で言った。

「彼女達も一緒に連れて行けばいい。君のとしてなら別に問題無いんじゃないかな?」


。それ。そこが一番の問題だろ。所有物?なんでそんなことを平気でお前は言えるんだ?」


所有物ということは、彼女達を人とは認めないということだ。

元いた世界では、ずっと昔に奴隷制は無くなっている。

普通ならそんな事を本人達の前では言えない。

先の会話を思い返しても違和感があった。

人を殺す事に躊躇いの無い考え方。

決して元の世界じゃ考えられない事だ。

深層心理で殺人欲求があるとかじゃなく、ただ手段としての殺人。


そして、それを平然と他人に説明出来る事が最もヤバイ。


その事に気がついた時、ひとつの疑問が生じていた。


タイチは続けてひとつの質問をした。

「お前なら橘のいじめに気がついていた筈だ。

なんで黙ってた?。…いやそこは100歩譲って気が付かなかったとして、俺にどうして平然と話しかけられるんだ?」


「……」

高坂からの返事は無い。


学校の中じゃ俺は、性犯罪者としての扱いだった筈だ。

やってると思ってようが、無実だと知っていようがさも当たり前のように話しかけられるわけが無い。


それが正義感の強い高坂という人間だった筈だ。

そして、それが違ったということはどこまで違和感を遡っていけばいいかが自ずと明らかになる。


最初からだ。


最初。それは別にこの世界にきた初めというわけじゃ無い。

本当の最初から。つまり元の世界からだ。


「高坂。お前元いた世界の頃からずっと、ずっと他人に興味なんか無いだろ?お前にあるのは破壊衝動や加害衝動だけだ。」


今まで気にしなかった。

クラス1のイケメンでみんなの味方で人気者。


いじめが起きてるクラスで、それでも何も変わらなかった。

高坂が1度でも橘へのいじめを注意したことは無い。


クラスの情報くらい否が応でも入ってくる癖に。


「そんな事どうでもいいんじゃないかな?」

突然、高坂は話し出した。

「別に僕に対して不信感があるのは構わないよ。でもそれがどうして王宮に戻ることを嫌がる理由になるのかな?」


「……やっぱり分かんないんだな。俺が戻ることが出来ても、あいつらは奴隷として扱われるんだぞ。そんなの許せる訳ないだろ。」


「彼女達は、元々奴隷でしょ?だったら奴隷が奴隷として扱われても問題は無いはずだよ。」


「言ったろ、仲間だって。俺はあいつらの為に命を懸けるって決めてるんだよ。」

彼女達がそばにいてくれるなら、それに報いなければならない。そうタイチは考えるのだ。


そこまで言うと、突然高坂は手を空へと持ち上げた。


「もういいよ。バカと話を続けるのは疲れるんだ。交渉決裂だね、……死ね。」


そうして、上空に無数の剣を作り出したのだった。

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