第45話 国境と油断

砂漠の中を、タイチ達はゆっくり進んで行く。

見渡す限りの地平線で、遠くには陽炎が上っているのがよく分かつた。

本当にこの近くが国境なのだろうか?


まぁ、近くに街がないから人がいないだけなのだろうが…


とはいえ、引き返す事など絶対に出来ない。

傀儡だろうが勇者殺しは重罪な筈だ。

俺たちが犯人だと分かるとは思えないが、向こうには勇者が大量にいることを考えれば離れて置くことに越したことは無いだろう。


それに桜野の様子はどこかおかしかった。

王宮での生活が、人の考え方をおかしくしているのならば何が起きるかわからない。

より多くの情報を手に入れなけば…


「ほら!タイチ食べなよ。クローバーの塩漬け!美味しいよ。」

「あぁ、ありがとう。」

考え事をしていると、リルから二つ塊を渡される。

口に入れると、強烈な甘味の中にしょっぱさが混じって、意外と美味しい。

クローバー単体で食べる事と比べれば雲泥の差だ。

クローバー。可愛らしい名前とは裏腹に凶悪な味覚破壊を呼び起こす悪魔の果実。


保存食として持ってきて、彼女達が気に入ってたが流石に何日間も食べ続けると飽きてしまったらしい。

ここ最近は薬草漬けや塩漬けなどをしている。


おかげで最近は、心なしか食べやすいのがとても嬉しかった。


「どうだ、ミレナ。何か見えたか?」

タイチは、リルから貰った塩漬けのクローバーの一つをミレナに渡す。


「ありがとうございます。…まだ何も見えませんね。国境を越えると、直ぐに分かると聞いていたんですけど。」

「ねぇ、その話嘘だったんじゃないの!?。もうそろ着いてもいいじゃん!」

リルが叫ぶが、どうしようもない。


「だけど。進むしかないよなぁ。…ていうかこの情報仕入れて来たのはリルだぞ。間違えてたらバツゲームな。」

「ええ!?もうあたし手が疲れたよ!今度はタイチが仰いでよ!ここ何回かずっと私がやってるよ!」


…それは確かにその通りだった。

リルが、勝手にゲームを仕掛けてきて自爆した結果なのだがそれでも少し心が痛い。


「…じゃあ、俺が仰ぐよ。」

「やったー!!」

タイチは木の板を持つと、上下に振り下ろし始めた。…どこか、主題がそれた気がしないでもないが。


「あー。腕が疲れるな。やっぱりうちわが欲しい。」

「うちわ?何それ?わたし聞いた事ないよ!?」

当然この世界には無いものだ。

うちわや扇子は日本の物なのだから。


「うちわって言うのは、縁を型どったのに紙を貼り付けたやつだよ。紙だからその分軽いんだ。」

「へー。じゃあ今度作ってみようよ!!」

「今度な。」


そんなよくある平和な時だった。思えば、油断していた。見晴らしがいい事を安全だと錯覚してしまっていたのだ。


タイチは頭上に、恐ろしいものが落ちて来るのを感じた。


「そもそも、この世界の紙だと出来るのか…ミレナ!!!!馬を止めろ!!」

「分かってます!!」

ミレナも何かを感じ取っているようで、急いで馬車を止める。


何かが落ちてくる。致命的なレベルの何かが。


まずい。まずい。まずい。まずい。まずい。

このままだと恐らく当たる。

当たらなくても衝撃でやられる様なレベルだ。


「リル!!ルルの事は任せるぞ!!何がなんでも守れ。ミレナ!!頼む手伝ってくれ!」

「はい!!」

タイチとミレナは、急いで馬車の外へと飛び出す。

そして、空を見上げて絶句するのだった。

なにせ…

「なんだよ。あれは…。剣?マジでか!?」


タイチ達の頭上には人の何十倍というあまりにも巨大な大剣が落ちてきていたのだから。


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