第42話 後日談
「ねぇー、タイチ。買おうよー」
「駄目だ。」
賑やかな市場の中にタイチはいた。そして側にはリルがいてさっきから執拗に何かしらの食べ物を買おうとしている。
だが、タイチは無情に却下していく。
何故なら......
「大体、お前に買い出しを頼んだのにそれを全部食い物に替えてきたんだろうが。」
タイチの手には様々な旅に必要だと思う品々がまとめて袋に入れられていた。
「えー、いいじゃん。今から旅に出るんだから沢山あっても。ほら、おねがい♡」
リルは紅く長い髪を持ち上げ、ポーズをとってこちらにウインクしてきた。
ブチンっ。そんな音がタイチの頭の中でした気がした。
「え、なに。タイチ。いや、まってここでそんな...まだ心の準備が......。」
急に狼狽えだしたリルを尻目にリルの頬に手を当て、そして......
「って痛い!痛いから!!」
リルの頬をつねった。
あの日から、おおよそ一週間が経過した。
リルは、あれから一晩の間寝続けた後に目を覚ました。
リルの精神は壊れてしまっていた様だが、スキル『奴隷王』によってステータスが書き変わった時にどうやらそれらについても回復するらしい。
最も今のリルのように初めから明るい性格というわけでは無かった。
リルはあの日のことを全て覚えていたようで、初めはベットから目を覚ますとすぐに土下座をしてきた。
それを止めさせても、完全に怯えてしまっていて手がつけられなかった。
それを救ったのがルルだ。ルルはタイチ達が絶対に危害を加えないというのを何度もリルに伝えてくれた。
そのおかげで、少しずつ少しずつこちらに気を許し始めた。
......そして、このザマである。
流石にこれは予想していなかった。
明るいのはいい事だが、自由奔放過ぎる。お使いを頼んだらその金を全部使って果物を買ってきた時は、絶句した。
果実の名前は、『クローバー』。日本にも馴染みのある名前なのだが...甘いのだ。味が、甘い。
確かに、甘味はこの世界で貴重だ。しかし、これは最早果物としての甘さでは無かった。例えるならはちみつに砂糖を混ぜて水分を飛ばした様な......。
これを食べたら味覚が暫く使い物にならなくなった。
そして恐ろしい事に、これをミレナ、ルル、リルは平気に食べるのだ。
どうやら、女子は甘い物が好きというのは異世界でも共通らしい。
更に達が悪い事にこの果実腐らないらしく、保存食に向いてると言う。...旅のお供にこの果実がついてくるのが決定してしまった瞬間だった。
「一体、俺はこれから何回あれを食べなきゃならないんだろうな......」
リルの頬をつねると、タイチはそんなため息を吐いたのだった。
☆☆☆
「ご主人様」「ますたー。」
そんなこんなをしている間に、ミレナとルルと合流した。
「おお、どうだった。上手くいったか?」
「はい。この街での加工品等を予算の限り買ってきました。」
ミレナは、荷台から一つの布を取り出してタイチへと見せた。
「これは、この街で栽培している虫から採取した糸で作られた布だそうです。きっと他の街では珍しいと思います。」
そして、ルルはもう一つの布を取り出した。それはタイチにも見覚えのある物だった。
「これはね!魔物からとってきた毛から作られた布なの!!とってもふわふわする!」
その布は正しくコアトンから採取した物で作られていた。
高級素材らしいから、きっと他所でも価値は有るだろう。
ミレナ達には、他の街で売る為の商品を買ってもらっていた。旅を続けるならばお金を定期的に稼ぐ必要があるからだ。
目的の場所は『黄昏の地』。タイチにはとうしてもそこに行かなければならないんだ気がするのだ。
「そうか、ありがとう。......それじゃあ、準備も終わったし行くか。」
そうして、荷物を全て馬車に入れ込み街を出る為に門の方へと向かう時だった。
「おーい!こっちだ!こっち!」
そんな声が聞こえ、声のする方へと目を凝らすと、ナッシュがいた。
ナッシュはそのままこちらへと走ってきた。
「良かった。間に合って......。やっぱり行くんだな。」
ハァハァと少し息を切らしてナッシはやってきた。
「......勇者を殺したからな。じきにここには国からの使いがやって来るだろう。訳あって俺はそいつらに会うわけには行かないんだ。」
「そうか、まぁ、詮索はしねぇ。それより......持ってけ!」
ナッシュは背負っていた一つの剣をタイチへと渡した。
「ん?何なんだこれ?刀身が黒いな。」
ナッシュが渡してきた剣は全体が黒く、そして柄の上の部分には蕾が中に入っている石が埋め込まれていた。
「これが、俺の自信作だ!!
名前を『緋色の姫君』!錬金術を駆使して作られた剣...魔剣だ!!」
「魔剣......でもなんで俺に?」
「お前が使ってる剣...安物だろ?あれじゃあいつ使い物にならなくなるか分からねぇ!......友達だろ、俺ら。だからお前らが無事でいて欲しいんだよ!!俺はこの街を離れられない...だから!!」
ナッシュは感極まったのか、泣いていた。
「......ありがとう。大事にする。今度あった時にこの借りは絶対に返すよ。」
そう言って、剣『緋色の姫君』を装着した。
「ああ!!今度あったら飛び切り凄い物寄越せよ!!じゃあな!」
ナッシュは目をゴシゴシと擦ると、そう言い走り去って行った。
「いい人でしたね。ナッシュさん。」
「あの人、ルルを守ってくれたの!」
「ヤバイ、あの人のバックの中に食べカス入れたままだった......」
3人は思い思いにそんな言葉を口にしていた。
再度、リルの頬をつねりながらタイチ達は歩き始めた。
「...それじゃあ行くか。新しい国へ!」
そして馬車へと皆乗り込み、ゆっくりとこの街を出るのだった。
〜第2章『奴隷都市と混血奴隷』 完
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ここまで読んでいただいた方に心からの感謝を。
どうも@backgroundです。私事で大変恐縮ですが、これから約半年間音沙汰が無くなります。ですのでこれを持ちまして一旦休載とさせて頂きます。
皆様のこれからの半年間に少しでも多くの幸せがありますように。
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