第41話 『奴隷王』の強制施行

「くそっ!どうすればいいんだ。」

リルを傷付けてはいけない。しかしリルの方は、タイチを殺そうと執拗に攻撃を仕掛けてくる。


そんな間にもリルがこちらに向けて蹴りを入れてこようとした。間一髪それを避けるも攻撃する訳にもいかず距離を離すために後方へと回避した。


リルは獣人とエルフのハーフだと言っていた。

だとしたら、遊戯場での話のとおりリルには獣人としての高い身体能力を持っているという事だ。そしてエルフの血が混じっているのなら......


「...火中級魔法『紅炎の矢』」

リルが詠唱を終えると、前方に5、6本の炎の矢が出現してそれをこちらへと飛ばしてきた。


「やっぱり魔法も得意だよな!『大地の檻』!!」

咄嗟にタイチは魔法を使って矢を受け止めた。

だが、相性が悪いせいか矢を止めきって直ぐに消滅してしまった。


「(どうする......木で拘束しようにも恐らく効果は無いだろう。リルの魔法で消されたらおしまいだ。)」


そして木が全て消滅したのを確認したリルはこちらへと突っ込んで来た。

リルの蹴りが肩に当たり骨に響く衝撃を感じた。


「ぐッ......リルっ!?」

しかし、そんな事よりもタイチに衝撃を与えた事があった。タイチは、今の状況等を全部無視してリルを無理矢理にでも抱き締めた。


「......どうしたんだよ、リル。辛いのか?今リルは何を感じてるんだ?」


リルは泣いていた。虚ろな目をしながらもその瞳からは涙が零れていた。


「......風中級魔法『烈風の刃』」

リルが詠唱をする。体に鋭い痛みがはしった。辺りをみるとさっきの攻撃で飛び散った血が流れていた。


「リル。ごめんな。俺が弱いから辛い思いをさせてるよな。きついよな。あいつが何かしたせいで操られてるんだろ?分かるよ。」


と、その時タイチは気が付いた。

和也がしたのはきっと何らかのスキルでリルを洗脳する類のものだ。


......だとしたら、それを超えるスキルでさらに上位者になれば命令を解除出来る筈だ。


「ごめんな、リル。俺を一生許さなくていいよ。俺は今から最低な事をする。」

そこまで言うと、タイチはとあるコマンドを唱え始めた。


「スキル『奴隷王』発動。目の前の対象『リル』を強制的に奴隷とする。」

すると脳内に久しぶりに聞く声が響いてきた。


〈奴隷の所有意思を確認。よって個体名『リル』をタイチの所有物とします。〉


「よし!出来た!!リル、命令する。今までの全ての命令を解除!!」


そう言った途端、今まで暴れ回っていたリルはストンと眠りに落ちてしまった。


「......これで何とか一件落着だな。ミレナの方が無事だといいんだけど。」

後の気がかりはミレナと和也についてだった。


しかし実の所あまり心配はしていなかった。ミレナが和也に負ける訳が無いと言う信頼があったから。


「それにしても、この傷はどうしようかな。あとでミレナに治療を頼むか......」


後はミレナが戻ってくるのを待つだけだ。


タイチは、そのまま地面に寝転がり雨が血を洗い流していくのを眺めていた。

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