第40話 龍鬼

鬼、それは生者を喰らう亡霊の集合体。

かつて、人を喰らいし化け物の事を人々は鬼とよんだ。

その鬼の特徴としては古来より怪力が取り上げられている。

......ならば龍が鬼となったら?



☆☆☆


「スキル『龍鬼』発動。

この身に宿せ、今は亡き龍達よ。」


ミレナがそう唱えた瞬間、ミレナの姿が変貌する。

頭には角が、禍々しい角が現れる。

手には巨大な爪が伸びていく。

尻尾には刺々しく長い銀色の尾が生えてきた。


そして、一直線に和也に向かって蹴りを入れ込む。

「馬鹿の一つ覚えの攻撃なんて効くわけねぇんだよ!!」

ミレナの脚が和也のお腹に食い込もうとする直前に和也は、手に持っている物を投げつけて来た。


「魔道具!『虚ろなる幻影』」

すると、ミレナの脚は和也を捉えていた筈なのに、急に和也が消えてしまった。


すると、背後に気配を感じミレナは咄嗟に前方に回避した。

そしてシュッと言う空気を斬る音が背後から聞こえる。


「へぇ!今のを避けれんのかよ!!今のを避けれたのは国軍の中じゃおっさんだけだっただけどな!!」

背後から現れた和也はそのままミレナに対して追撃を行う。


「(今のは一体何でしょうか?)」

それを何とか回避しながら、ミレナはさっき起きた事を分析しようとしていた。


そして、和也の攻撃の手が止み隙が生まれた瞬間に渾身の蹴りを和也へとぶち込んだ。


しかし、一切の手応えが無く咄嗟に勘で右へと回避する。


「(何か仕掛けがある筈です。魔道具だって弱点がはあるはずなのですから...)」

ミレナのいた場所に剣が振り下ろされ、また和也が表れた。そこでミレナはそのまま攻撃を展開しようと和也に右拳をふるう。


だが、それは当たらずまた消えてしまった。

そしてミレナの背後へと現れる。


ミレナは、和也の手が届かない距離まで瞬時に回避した。

「(なるほど、そういう事ですか......だったら!)」


ミレナは再び加速して和也へと拳をふるう。

だが先ほどと同じように和也が消え、後ろから剣が振り下ろされる。


そこでミレナはその剣を

そして、実体化した和也へと爪をたてて振り下ろした。


それは、和也の頬を掠めて頬に一筋の傷が生まれた。


「......へぇ、惜しかったね。あと少しで殺られるところだった。もう、魔道具については気付いたのか?」

和也は頬を拭いながらミレナに尋ねた。


「あなたの魔道具は、短距離の転移ですね。そして時間差を誤魔化す為の簡単な認識阻害をほんの少しの間使用者に付加している。」

だから、攻撃をしても手応えが無かった。そして、ちょっとした時間差でその場から2、3歩程度異なる場所に現れる。


「正解!おもしれぇだろ!これ、国から貰った奴なんだ。これで俺は戦闘では最強って訳だ。」


そこまで言うと和也はその場から消え、ミレナの前へと現れる。

そして剣を横なぎにふるう。


「まぁバレた所で問題無いけどな!さっきは油断したけど、これからは剣を掴まれても転移すればいいだけだ!」


間一髪避けたミレナはそのまま、後方へと移動する。

それを追って、和也は剣を振り回す。

ミレナはその攻撃を避けていく。

「(......あと少しでしょうか?)」


「ほら!どうしたよ!逃げてばっかりだと直ぐに死ぬぞ!!ハハハハッ!」


そして、ミレナを追い詰め剣を振り下ろした時だった。



「え?」

突然地面が柔らかくなった気がし和也はバランスを崩して倒れてしまった。


「やっとですか。」

ミレナはこの場で初めて微笑んだ。

そして転んだ拍子に落としてしまった和也の剣を蹴飛ばして遠くへと追いやった。


「くそっ何で脚に力が入らないんだよ!!」

と、そこで和也は一つの事に気が付く。


「お、おい!何で俺の脚の半分が無くなってるんだよ!!」

和也の脚は指先から膝までが無くなってしまった。


「ふふっ。いいでしょうそれ?考えたんですよ。何が一番の恐怖か。」

ミレナは笑いながら話をし始めた。


「どうですか?全く痛みが無いでしょう?

『テンペストドラゴン』っていう龍が昔居たんですけど、魔王側だったせいで絶滅したんですよ。その龍の特徴は多彩な毒を扱っていた事。あなたに使ったのは壊死毒に神経毒を混ぜ合わせた物です。」


そこまで言うと、爪でもうひと掻き頬を傷付ける。


「ひたすらあなたを傷つけて治すのをずっと繰り返すのもいいと思ったんですけど...それじゃあご主人様の負った傷には届かない。だから、あなたのおままごとみたいな戦いにも付き合ってあげたんです。なるべく傷をつけずに毒を入れこむために。」


「今、あなたに注ぎ込んだのは『千年龍』の力、意識の覚醒です。」

そう言って、近くにあった石を真上へと投げてキャッチした。


「よく、戦闘中は一瞬の出来事が長く感じるってあるじゃないですか?それは意識が極限状態で覚醒しているからです。私があなたに注いだのはそれの100倍以上の性能。あなたはもうそろそろ、刹那の時間が永遠に感じるような時間の停滞に陥る筈です。」


「そ、そんな!?やめてくれよ!お願いだから!お願いします!!」


和也は、体が動かないなりに体を折り曲げながらミレナにそう懇願する。

「ふふっ。出来たらご主人様にも見て欲しいですけど、この姿は見て欲しくないので残念です。まぁ、今日が雨で幸いでした。これであなたは死ぬ瞬間まで自分の体が腐って雨に流れていくのが水溜りから見える。」


そうやって、人を追い込んで笑う姿は正に鬼と呼ぶのが相応しかった。


「い、嫌だ!!助けてくれ!頼む!!」

「あなたは今から長い時間をかけて自分の体が腐っていくのをその何倍もゆっくりした速度で眺めながら死んでいくんです。」


「う、うあああああぁ......」


「そろそろ精神世界に閉じこもった頃ですかね......それじゃあ、戻りましょう。ご主人様達がきっと待っています。...スキル解除」


そしてミレナは人の姿へと戻り、タイチ達の居た場所へと踵を返したのだった。

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