第39話 勇者の1人 桜野 和也

「和也......どうしてお前がここに!?」

タイチは、背中の切られた痛みを堪えながら声を押し出した。

そのタイチの問に和也は、声を上げて笑う。


「どうしてって、馬鹿かよ!お前を殺しに来てやったんだよ。」

そして、和也は腰に着けていた1本の剣をこちらに見せてきた。


その剣は、様々なところに宝石が散りばめられているいわゆる宝剣だった。

「これ、何だと思う?この国の勇者に与えられる剣なんだぜ。つまりこれが勇者の証って訳だ。」


だから...とそこまで言って和也はこちら側へと走っていき、

「お前を殺せるって訳だよ!!」

そのまま剣を向けてきた。


「させませんよ。」

だが、ミレナがそこに現れて和也に蹴りをいれて遥か前方へと押し出した。


「へぇ、そっちの女もなかなか使えそうだな。だけど......やれ!奴隷!!」

その言葉を聞き、リルは再度詠唱を始める。


「......光上級魔法『光陰の一閃』」

そして、詠唱が終わると巨大な光剣が頭上に現れた。

これが振り下ろされたらひとたまりも無いだろう。


......だったら、やるしかない。


「光上級魔法『光陰の一閃』!!」

魔法はイメージが肝心だ。だとしたらイメージさえ出来れば可能だという事だ。魔法の適性上は使える筈なのだから。


そして赤黒く、濁った血の様な色の大剣が現れた。

それはあまりにも毒々しい代物だった。


「まずい!!ナッシュ!急いでルルを連れて離れろ!!」

「!?お、おう任せろ!行くぞ嬢ちゃん!」

そしてナッシュはルルの手を引いて走って行った。

ナッシュなら安全な場所でルルを守ってくれるだろう。


「くそっ!間に合え!!」

タイチは急いで、リルの所へと向かう。


「......」

リルは、迫ってきたタイチを迎撃しようとして拳を叩き込もうとしてくる。


「そんな事をしている暇ないんだよ!!」

その手を掴み、そのままの速度で前方へと走り転げていく。


そして、頭上では大剣二つがぶつかりあった。


凄まじい爆風が吹き荒れていく。タイチはリルを離さないように抱き締めて、熱風が過ぎ去るのをひたすら待つ。


熱風が無くなり、リルを離すと直ぐにリルは直ぐに離れた場所へと飛び移った。

そして、起き上がり目にした光景は正に地獄だった。


辺りの草木は焼けた跡があるのと同時に病気になっているだろう斑点が沢山出来ていた。

そして雨によって出来ている水溜まりには濁りがある場所が有る。きっと水にも死という概念が与えられたのだろう。


「これが『死』という概念の魔法が与える影響なのか......」

原因は恐らく制御出来ていない上級魔法を使用した事にある。


「......」

リルはこちらの動きをじーっと見詰めている。

リルの服が傷ついていない事を考えると、無事だったのだろう。


だが、どうしたらいいだろう。拘束しようにも動きが速過ぎて捉えきれない。それに下手に上位の魔法を使うと制御出来ずリルを傷付けてしまう。


「ミレナは......」

周りを見てもミレナと和也が見当たらなかった。

ミレナがいないという事は恐らく和也と二人で戦っているという事だろう。

つまりはタイチ独りで解決しなければならないという事だ。


☆☆☆


「.....凄い音だな。向こうでも何かあったのか。」

なぁ、どう思う。と和也は、目の前に立っているミレナに問い掛ける。


「ご主人様なら大丈夫に決まってます。それよりも、リルさんに何をしましたか?」

ミレナにも、あの時の目には覚えがあった。

あの目は、極限まで追い詰められた者が命令に従わなければならないという使命感だけに突き動かされている時にする目だ。


「ん?あぁ、凄いだろ。俺の『女神の祝福』の能力だよ。俺の能力は『魅了 』。能力に掛かった奴は皆俺に跪くんだ。特にあの奴隷には効いたなぁ。街で軽く使っただけでもう俺の支配下だ。」

にやりと顔を歪ませながらそう言った。


「あなたを殺せばリルさんは元に戻りますか?」


「ムダムダ。知ってるだろ?奴隷なんだから。命令は絶対だ。1度命令したら死んでもやらなきゃ。特に俺のは能力を使っての奴だから。拒否権なんて無い。」

そして、キラキラに輝いている剣をミレナへと向けてきた。


「そうですか......良かったです。」


「は?馬鹿なのか?言ってる意味分かんなかったのかよ。アイツは絶対に死ぬって事なんだよ!!」


「違いますよ。あなたが死んでも私たちが困らないって事です。あなたの生死がリルさんに影響しないなら、あなたを殺してもリルさんに影響は無い。そうですよね?ただ魅了するだけなんだから。」


「ハハハハッ。面白い奴隷だな!!やっぱりお前も貰っとこう!スキル『魅了』!!」

そして、謎のピンク色の光をミレナに向けて放ってきた。


「やっぱり、これだからご主人様以外の人間は......」

そのまま光を浴び続けるミレナ。しかし一切の変化が見あたらなかった。


「は!?なんで効かねぇんだよ!!奴隷で、しかも女なら絶対にかかるはずだろうが!!」


和也は、動揺を隠せなかった。

このスキルで堕とすことが出来なかった女なんて勇者達以外では居なかったのだから。しかも奴隷なら効果はてきめんの筈だ相手の方が身分が高いという深層心理がこのスキルには最高にヒットする。

だから信じられなかった。スキルを使って効かないが居ることに。


「まぁいいです。あなたにはご主人様を痛めつけてくれたお礼をしなくてはいけません。......ここならご主人様には見られないでしょうし。見せてあげます。......本当の地獄を。」


そこまで言うと、ミレナは急に手を地面につけた。

そして......


「スキル『龍鬼』発動。

この身に宿せ、今は亡き龍達よ。」


地獄が始まる。

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