第35話 殺し合い
タイチたちがいる遊戯場において、今現在殺し合いをさせられているのは、あの時、この街に来て直ぐに出会った奴隷の少女『ルル』だった。
ルルは今、姉である『リル』と向かい合っている。
普通なら姉妹で殺し合いなんて有り得ないだろう。ただ、この状況なら......奴隷という立場で、そして、殺さなければ自分が殺される事が明らかになっているならば......
その証拠に、2人の間には親しい間柄の雰囲気は感じられない。あるのは殺伐とした雰囲気だけだ。
「なぁ、ナッシュ。これって、引き分けとかはないのか?」
「そんなもんあるわけないだろう。『殺し合い』なんだから。...本当は良くわかってるだろ?」
有り得ないと分かっていても、そんな希望に縋らずにはいかなかった。
......分かってる。例えこの少女を助ける事が出来たとしても、なにも問題は解決しないという事を。
それに、そもそも自分だってミレナを、奴隷を所有している。ミレナを奴隷扱いした事は無いがそれでも、事実は変わらない。
そんな中、状況が動いた。
リルの方が、素早くルルの方へと走り出し容赦なく手持ちの小型ナイフを前方に突き刺した。
「うっ!」
ルルは間一髪、ナイフを避けるもルルが着ている薄汚れた布切れの端が破ける。
そして、リルは攻撃の手を緩めること無くルルを追い詰めていく。
ルルは頑張って避けていくも少しずつリルの刃が着実に体を掠めていく。
「くぅ!いたい!いたいよお姉ちゃん!!」
ルルが姉であるリルにそう訴えかけるも、リルは全く動じる様子が無い。
何故だ......どうしてあのリルという少女は妹であるルルを躊躇いなく攻撃出来るんだ?
疑問に思ったタイチはリルの方に目を凝らす。
するとリルの方の目が虚ろなことに気が付いた。
......もうとっくに、姉の方は壊れてしまっているのだ。リルの刃は、どんどんルルを追い詰めていく。きっと、このまま続けたらルルは実の姉であるリルに殺されてしまうだろう。
だが、どうしようもない。この街の習慣を止める力がないからだ。ここで少女を助けても何も問題は解決しない。......なんて無力なんだ。
「いたい!痛いよ......」
そしてついに、ルルは泣きながら地面に座り込んでしまった。もうこれでおしまいのようだ。
リルはどんどんルルとの距離を詰めていく。
......この街の風習を止める力があれば良いのに。
リルは、ルルの前方に立ちはだかるとナイフをルル目掛けて振り下ろすーー
「『大地の檻』!!」
リルの四方から、木が発生してリルの体を拘束する。
そして、魔法の発生源であるタイチの方に遊戯場にいた全ての人の視線が集まった。
「ご主人様?一体どうしたんですか?」
「......ミレナ。あの奴隷を買おう。いいか?」
するとミレナは、そっと微笑んでしっかりと頷いた。
「ご主人様らしいです。大丈夫ですよ。やりたいようにやって下さい。」
......これでミレナからも許可を得た。
なんて馬鹿な事を考えていたんだ。奴隷制を無くすこととあの少女を助けるのは全く別問題なのに。勝手に話を大きくしてあの少女を見殺しにする所だった。偽善でも、助けたいと思った人を助けないと人としておかしくなってしますだろう。
しっかりと息を吸って、遊戯場にいるすべての人に伝わるように、声を張り上げる。
「この奴隷を買う!!!二人共だ!値段は言い値を払う!!」
すると場は一瞬静まり、直ぐにざわめき出した。
「誰なんだ。あいつ。折角良いところだったのに...」
「まったくだ。少しは空気読めよ。」
「おい!馬鹿やめろ!あいつが貴族だったら殺されるぞ!それにあいつの服を見ろ!見た事無い物だが凄い価値があるのか分かる。ヤベェやつだって!」
どうやら、貴族か何かと勘違いしてくれた様だ。それにこの特殊な服も効果があるらしい。
司会の人が慌てて、話を進める。
『わ、分かりました。直ちに他の者をそちらに伺わせます。それでは!一旦これで殺し合いを終了させて頂きます!』
こうして、タイチは奴隷の姉妹を購入する事になった。
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