第33話 触媒購入

 同じクラスには、桜野という男子がいた。

 桜野、本名『桜野 和也』。


 こいつについて一言で言い表すなら、とても空気を読む男子だ。

 桜野とは最初とても仲良かった。だが、次第に朝倉達のグループとつるむ様になってから話さなくなっていった。


 そして、朝倉達のグループに入ってからは性格が一変した。

 今までは、よく人の事を心配出来る人だったのに、面白い事の為なら人を陥れる事に躊躇わなくなっていた。


 そして、あの日...足を切り落とされた時もそれを言い出したのは桜野だった。


 ☆☆☆


「あの、本当に大丈夫ですか?」

 ミレナは、宿に帰ってからもずっと心配してくれている。


 しかし、タイチはミレナに話すかどうか悩んでいた。これを話すには勇者の事も話さなければいけないと思ったからだ。


「あぁ、大丈夫だよ。ありがとう心配してくれて。」

 そっと、ミレナの頭に手を載せて前後に動かす。


 こうすると、ミレナは嬉しそうに目をつぶるのだ。その為、話を逸らすためにそうした。


 だが、今回は違った。

 パシッと音を立てて、手が振り払われた。


「......え?ど、どうしたんだ、ミレナ?」

 予想外の事に思考回路が作動してくれない。


「......ご主人様。私にも考える事は出来ます。誤魔化すのではなく言いたくないなら、はっきり拒絶して下さい。......もし、悩んで頂けてるなら話して下さい。私は絶対にご主人様の味方ですから。」


 ミレナの方を見ると、顔を赤くしていた。

 ...きっとミレナがこんな事を言うのには凄い勇気が必要だっただろう。それでも、言ったのだ。誰でもないタイチの為に。


 その様子を見ると、どうして話したくなかったのかが分からなくなってきた。きっとミレナなら、受け止めてくれるだろう。


「......そうだな。ミレナ。聞いてくれるか?俺が何故この世界に連れてこられたかを。」


 そうして全てを話した。

 自分達が勇者として連れてこられたという事。

 1人だけ捨てられた事。

 そして今日、危害を加えてきた中の1人をこの街で見かけた事。


 それを聞くと、ミレナはそっと立ち上がった。


「......行きましょう、ご主人様。駆除は早い方がいいです。」


 ミレナの目は完全に人を殺す目だった。

 タイチは慌ててミレナを止めようとする。


「駄目だよ。ミレナ。それは最悪な選択だ。勇者は最早、国の重要人物になってる筈だ。勇者を殺したら国を追われることになってしまう。......それにね、ミレナ。俺は別にあいつらを殺したいとは思わない。......だからいいんんだ。ありがとう、俺の事で怒ってくれて。嬉しいよ。」


 そっとミレナの手を握り締める。


「......そうですか。ご主人様がそれでいいなら私は構いません。」


「うん。ありがとう。」

 なんとか、ミレナを止めてその日は寝る事にした。



 ☆☆☆


 翌日、ナッシュと一緒に街で買い物に行く事になった。

 昨日の時の副作用で腕が動かないので今日は戦闘は行えないと判断した為でもある。


「......悪いな。ナッシュ。今日休みにしただけでなく街案内してもらうなんて。」


「へへっ!いいって。魔法使わせたのは俺でもあるんだし。今日は付き合うぜ。」

 にへらっと笑ってナッシュは、歩いて行く。


 そして最初についたのは、昨日の目的でもあった触媒を売っている店だ。


「こんにちはー。お!いるな、ばあちゃん。客だぜ

 !!」

 ナッシュは店に入るとそう声を出した。

 タイチ達は、ナッシュについていき店に入る。


 店の中には暗い雰囲気が漂っていた。そして店の壁においてある棚には様々な薬草や石なんかが置かれていた。

「おや、ナー坊かい。どうしたんだい?珍しく人を連れてきたりして。」


 そして、店の奥から歳は70ぐらいの妙齢の女の人が

 出てきた。


「そうだぜ!連れてきてやったよ!新しい客!!俺の新しい仲間だぜ!!」


「フムフム、...これはどうも。いつもナー坊が世話になってるね。」


「いや、こっちこそ。ナッシュにはいつも助けられているよ。」

 その言葉を聞いてナッシュの鼻の穴が大きくなっているが、見ていないフリをしておく。


「それで、今回はどうしたんだい?」

 店の中の物に手入れをしながら、そう聞かれた。


「あぁ、実は魔法に使える触媒が欲しいんだ。実はーー。」


 そして、タイチの魔法についての事情を話した。



「フムフム。なるほど『古代魔法』ね......。だとしたら触媒は...コレとコレといったところかね。」


 そして、店から二つの物を取り出して来た。

 一つは、何かの骨。そしてもうひとつは白い宝石だった。


「この骨は、『ビーガルトル』希少種から取れる尻尾の骨だね。そしてこの石は、錬金石さね。昔の錬金術師が作った物だから製造方法は不明になっている。このふたつとも、今には存在しない魔法属性に適正が有るからきっと合うはずだよ。」


「少し、鑑定してもいいか?」

「別に構わないよ。」


 一応念のため、鑑定をしておく。


 ーーーーーー

『希少種ビーガルトルの尾骨』

 ビーガルトルの尻尾の骨。希少種から取られた。

 魔法の触媒として利用される。希少素材。



『錬金石』

 製造者...不明。

 魔法援助の作用がある。古代魔法にも適正有り。


 ーーーーーー


 二つとも、ちゃんとした触媒の様だ。

 古代魔法に対して効果が有る触媒はやはり珍しいのだろう。だとしたら2種類あるだけでも僥倖とうものだ。


「分かった。二つとも売ってくれ。いくらだ?」


 すると、急に難しい顔をし始めた。


「......金貨30枚だね。申し訳ない。ナー坊の友人なら安くしてあげたいけど、これ以上安くしたらウチが赤字になっちまう。」


 金貨30枚か......確かに高いな。触媒だし、希少素材だから高いのはしょうがないかも知れないが、やはり買うのには抵抗がある。


「......どう思う?ミレナ。」


 2人のお金であるのでミレナにも尋ねる。


「私は、買っておくべきだと思います。幸い、最近の狩猟で稼げていますし、これからいつ手に入るか分からない以上持っておいた方がいいかと。」


「そうか...じゃあいいか?」

「はい。」


 ミレナに許可を貰った所で、買う事に決めた。


「それじゃあ、二つともくれ。」


「はいよ。毎度あり。......いい娘を持ったね。」


 その老人は、どこか懐かしそうに2人を眺めそう言ったのだった。












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