第32話 古代魔法と今の魔法
そうして、ナッシュとパーティーを組んで数日が経過した。
ナッシュの魔道具は確かに便利で、コアトンを引き寄せる為の匂いを出す道具や、野外で食事をする為の簡易結界など、快適に狩猟をする事が出来た。
また、驚くべき展開があった。ナッシュは昔の文献を研究していたらしく、タイチの魔法についてある程度の知識があったのだ。
そこでナッシュに、タイチの魔法について見てもらう事にした。
「それじゃあ、その魔法を見せてくれ。」
「ああ分かった。」
タイチは、自分達以外に周りに人が居ないことを確認して魔法を発動する。
「『大地の檻』!!」
すると、辺りから木が生えてきて空中で収束する。これで対象を捕獲するのだ。
「んー。なるほど、次やってくれ。」
ナッシュは口に手を当てて考え込んでいる。
「ああ、『殺戮の宴』!!」
大量の手が出現して、渦を巻き消えていった。
「次。」
「『ライト』!」
この魔法だけは、どうしてこうなるのかわからないが、一応使っておく。
呪文を唱えると、目の前に沢山のギロチンが出現して、剥き出しの刃が落下する。
そして、地面に落ちたギロチンの刃は消えていってしまった。
「......これが俺が使える魔法の全てだ。」
「そうだなぁ、......体に疲れは?」
「いや、まったく無い。」
不思議と魔法なのに疲れることが無いというのがとても不気味なのだ。
「そうか......まぁ安心してくれ。ある程度仕組みが分かった。」
そう言うと、ナッシュはバックから一つの石を渡してきた。
「そいつに、ありったけの魔力を流し込んでみてくれ。方法は......」
言われた通りに、石に体の中の不思議な感覚を移すようにして魔力を流し込む。少し体が熱くなるような感覚がした。
すると、石は一瞬白色になり、それから真っ黒に染まった。
「やっぱりか...」
ナッシュは納得のした顔つきで頷いている。
「おい、どういう事何だ?説明をしてくれ。」
1人だけで納得されたらたまらない。タイチはナッシュに説明をするように頼んだ。
「あ、そうだったな。じゃあ説明を始めるぞ。」
そう言うと、ナッシュは話し始めた。
☆☆☆
俺が思うにそれは全部、古代魔法で合ってる。
タイチはどういう訳か古代魔法が使えるんだ。
え?そんなに珍しいのかって?珍しいさ!世界中探したって使える奴がタイチ以外にいるのかどうか凄く怪しいよ。
それはなぜかって言うとだね。
元々、俺達が使っている魔法と古代魔法とは仕組みが違うんだ。
俺達の魔法は、単なる法則に過ぎないんだよ。理に沿って、魔力で決まった事象を起こすだけなんだ。でもいにしえの魔法は違う。あれは魔力を糧にして事象に介入するものだ。
だから、今では使う事が出来る人はほとんどいないと思うんだ。
今より昔の文献には、古代魔法の使い手についての話があってねーーー
......話が逸れたね。それでタイチは、古代魔法が使えるんだけど。体が魔法に耐え切れないんだ。コントロール出来ていないから、全ての魔法に対して、古代魔法の効果がつきまとうんだ。
あの魔法はライトで合ってるよ。
ただし、古代魔法としての『死属性』が付与されている。
その石を見てご覧。真っ黒に光っている。
それは古代遺産と呼ばれる物で、古代に使われていた魔力適性判断のアイテムなんだ。
黒は死の象徴と言われる。
つまりタイチの適性属性は『死』だという事になる。
☆☆☆
ナッシュは話終えると近くにあった大きな石の上に座った。
なるほど、確かにナッシュの言っている通りなら、別の魔法になってしまっている理由にも説明がつく。
そして、副作用だって自分の身の丈以上の魔法を使っているのだから発生しても不思議ではない。
だが、原因が分かったとして解決策は無いのだろうか?
「なぁ?だとしたら俺はもう魔法が使えないって事なのか?」
副作用ありの魔法を使い続けるのは危険すぎる。
「いや、方法は三つある。」
ナッシュは3本の指を立てた。
「一つ目は、まぁ副作用を受け入れて普通に使う事だ。副作用っていっても死ぬわけじゃ無いからな。
そして二つ目は、他の人の魔力を通して魔法を使う事。魔力の少ない人の魔力で無理やり発動したら最悪その人は死んでしまうが、それでもタイチ自身には全くのデメリットが無い。
三つ目は、触媒を使う事だ。例えば希少な植物や石なんか、人の血液も触媒として使える。触媒を使えばそれが魔力の代わりになってくれるから副作用なんかは起きない筈だ。」
つまり、対策は
副作用を考えながら使う。
他の人の魔力を使う。
触媒を使う。
この三つだという事になる。人の魔力を勝手に使うのは気が引けるが触媒を使う事が出来るらしい。
この情報は有難い。触媒があればいざと言う時に役に立つに違いない。
「そうか、分かった。それでこの街で触媒が手に入る場所を知ってるか?」
「任せとけ!俺はこの街の錬金術師なんだから。そういうのは誰よりも詳しいに決まってる。」
なので、今日の狩猟はここで終え、ナッシュに街を案内してもらう事にした。
☆☆☆
ギルドで今日の分の売却を終えて、少し歩いていた時だった。とある1人の男を見かけた。
「へへっ!このナッシュ様に任せとけって。俺様御用達の店紹介してやるよ!......タイチ?どうした?」
「ご主人様?どうされましたか?顔色が悪く見えます。」
タイチの異変に気付き、2人が声をかける。
しかし、タイチはさっきから震えていて何も話さない。そして視線だけは、さっきまで男がいた場所を睨み付けていた。
「......悪い。ナッシュ。また次回に買い物に付き合ってくれるか?今日は帰る。」
「あ、あぁそうか。分かった。じゃあな!また明日!」
異変を感じ取ったのか、ナッシュは急ぎ足で去っていった。ナッシュは人との付き合いが苦手な為 、こういう時の対処が分からず、ミレナにタイチを任せたのだった。
「......ご主人様。本当にどうされたんですか?ご主人様らしくありません。」
「......たんだ。」
タイチがボソッと何かを口にした。
「え?何とおっしゃいましたか?」
ミレナは聞き取れなかった為、タイチに聞き返した。
「いやがったんだ。ここに!クラスの奴が!!」
タイチが見た男。それはクラスの連中の1人で、タイチの足を切り落した中の1人だった。
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