第31話 B級冒険者『魔道具使いのナッシュ』
「す、すごいな......今の一撃で倒したのか?」
タイチは、今の光景......ミレナによる一撃で魔物『コアトン』を倒したのを見てそう言った。
「ええ、別に触れても一撃で仕留める事が出来れば問題ないと思いました。」
ミレナはさっき仕留めたコアトンをこちらへと運んで来る。あんな大きな魔物を運ぶことが出来るのだ。これも圧倒的なステータスのお陰だろう。
そこに、森の向こう側から声が聞こえた。
「すごいな。お前ら。コアトン相手に力任せで戦うやつ初めて見た。」
そして、青い髪をした青年がタイチたちの目の前に現れる。
「「誰だ(です)!?」」
剣を構えて男に向ける。
すると男は両手を上げて笑うのだ。
「おっと、俺は別に怪しい奴じゃねぇ。お前らと同じ冒険者だ。Bランクの冒険者、『魔道具使い』のナッシュって言われてるんだ。聞いたことねぇか?」
男は、わざとらしく顔に手を置いてポーズをとった。
......だが全く聞いたことが無かった。
「いや、知らないな。」
「え!?嘘だろ!?俺だぞ、俺!凄腕冒険者って噂になってるだろ!」
自分で自分の事を凄腕って言うことが出来る自信に素直に凄いと思いつつも、呆れてしまう。
「いや、悪いが知らない。すまないな、俺達はこの街に来たばっかりなんだ。」
すると落ち込みかけていた男の顔が急速に明るくなっていく。
「そ、そうか。それなら仕方が無いよな!まぁすぐに俺の名声が聞こえてくるさ!それでは諸君さらばだ!ハーハッハッハっ!!」
そう言って、男、ナッシュはまた森の奥へと去っていく。
「ってちげぇぇぇぇぇ!!!」
ナッシュはまたこちらに走って来た。
「どうした?まだ何かあるか?」
別にこちらとしては用があるわけでもなかったので、そう尋ねる。
「そういや、まだ俺お前達に何も言ってなかった。」
そして、持っていた鞄から一つの石を取り出してこちらに投げてくる。
「それは魔石に凝縮作業を重ねた錬金石っていう物だ。それを作るのにこのコアトンの魔石が大量に必要なんだ。」
そこまで言うと、ナッシュはゆっくりと間を置いて、こちらに手を差し出してきた。
「俺とパーティーを組んでくれ!!」
そして、ナッシュは話を続ける。
「俺の本業は錬金術師なんだ。その為、冒険者になって魔石を集めてるんだが、どうしても一人だと効率が悪いんだ。勿論、魔石以外の素材は全てそっちの取り分で構わない。どうだ?」
.....つまりは、コアトン討伐においてパーティーを組んで、魔石を譲って欲しいという事らしい。だが......
「それをする事で俺達に何のメリットがあるんだ?」
こちらはミレナがいる限り、コアトンの討伐は容易に出来る。それに魔石は魔物の素材の中で最も価値がある部分だ。この男とパーティーを組むメリットが分からない。
「ああ、それはだな......」
ナッシュは、カバンの中から一つの道具を取り出した。
それは四角い箱の形をしていて、箱の真ん中には綺麗な石が埋め込まれていた。
「これは、いわゆる『マジックポーチ』だ。これには、大量の荷物が入る。これにコアトンの素材を入れたら1日に何体ものコアトンを討伐する事が出来る。それはあんた達にとって助かる筈だ。」
確かに今のままでは1日に一体が限界だ。だが、これさえあれば遥かに効率は上がるだろう。
「どう思う?ミレナ。」
「......確かにこちら側にもメリットがありますね。」
しかし、とミレナは話を続ける。
「それにたくさんの素材を入れ込んだ後、あなたが裏切る可能性を否定できません。」
と、そう言ったのだった。
本当にその通りだった。以前も裏切られていたのに、今回は大丈夫なんて保障はない。
タイチは裏切られるという可能性さえ考えていなかったのだ。
「んーーー。確かにな。信用出来ないよな......じゃあこうするか。そのアイテムをあんた達に預ける。それでギルドに素材を売却した後に俺に返してくれ。これを毎日繰り返す。そうすれば、俺が裏切る心配はないだろう?」
「ですが、それでは私達がこれを持って逃げる可能性もありますよ?」
「あぁ、だからこそお前達に預けるんだ。それがお前達に対する俺からの信頼の証だ。」
そう言うと、もう一度手を差し出してきた。
「......どうだ?」
ナッシュはどこか不安そうな顔つきでこちらの様子を伺ってきた。
タイチはチラッとミレナを見る。するとミレナはコクンッと頭を小さく下げた。つまり受けても大丈夫そうだという事だろう。
「分かった。その申し入れを受け入れるよ。」
そう言って、タイチはナッシュの手を掴んだ。
☆☆☆
そして、今日の 狩猟を終えてギルドにやって来た。
「クエストが終了した。確認と素材之かいとりを頼む。」
タイチはそう受付の人に伝えた。
「分かりました。......それでコアトンの素材はどこでしょうか?」
その人は、タイチたちがコアトンの素材を何一つ持っていない事を不思議に思ったのだろう。
それに対して、後ろからナッシュが答える。
「あぁ、荷物なら俺のマジックポーチに入れてる。」
そしてポーチをギルドの人に見せる。
「ナッシュさん......パーティーを組まれたのですね。やっと引き受けてくれる人が表れたんですか。良かった。」
どこかホッとしながら、ギルドの人はそう言った。
......一体、どういう事だろう?
「なぁ、こいつ。今までもパーティーの募集をしてたんだろ?なんで誰も受け入れなかったんだ?」
確かに、パッと見怪しい取引だがマジックポーチ持ちの奴をパーティーに入れる事が出来るんだ。そんなに損な話では無かった筈なのに......
「それはですね......。」
「あっ!やめろ!!絶対に言わないでくれ!!」
ナッシュが、急に慌ててギルドの人を止めようとする。
「この人、人見知りで大勢の人の前では何も喋れなくなるんですよ。」
......異世界にもコミュ障が居るということを認識した瞬間だった。
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