第28話 初めての商談

 騒がしい街の人びとの声が聞こえる。

 ここは、『ルーギラス』という街。


「やっぱり街は活気があるな。」

「そうですね。」

 タイチ達は、馬車に乗りながら街の中を進んでいく。街の中には馬車などが通る為に道が整備されている為スムーズに進む事が出来ている。


 タイチたちは、『ノストック』の街から馬車を使ってこの街まで来たのだった。後ろには商品が積まれていて、今からこれを売りに行くのだ。

 しかし、ここで一つの問題が発生した。


「けど......どうやってこの商品を売ろうか?」

 そう、タイチたちにはこの商品を売る為のツテが無かった。


「やはりここは、この街にある大きな商店に行ってみましょう。」

 ミレナのアドバイスを受けてなるべく大きい商店を探すべく、街の中を進んでいく。


 そして、今まで通ってきた店の中で一番大きいと思った店の前に着いた。

 そして店の中へと入ると、煌びやかな装飾品で飾られた空間へと景色が変わった。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」

 入るとすぐに店の店員がこちらに話しかけてきた。


「実は積荷があって、買い取って欲しいんだ。」

 そういった途端、店員の目つきが変わったように感じた。

「そうですか......でしたら担当者を呼んできますのでその荷台の所で待っていて下さい。」

 店員は立ち去ってしまった。なので荷台の方へともどる。



 そうしてしばらく待った後、店の方からさっきよりも幾分質が高そうな服を着た男の人が出てきた。


「お待たせしました。それで今回の取引物はこの荷台の中のもので構いませんか?」

「ああ、宜しく頼む。」

 そうして、その男は荷台の中へと入っていき審査を始めた。

 それからしばらくの時間が経過した後、


「なるほど、なかなか素晴らしい物をお持ちですね。グロリカの果実にメチベル鉱石。どちらも高級品ですね。」


 ......へ?高級品なのか。だけどこの商品は荷馬車のオマケみたいな感じだったんだが。

 試しに鑑定をしてみる。



 ーーーーーー


『グロリカ』

 特定の条件でしか実をつけない特殊素材。酒などに漬けると深いコクのある甘みが生まれ美味。また蜂蜜に漬けても非常に美味しいが、実自体にアルコールが含まれる為酔う事がある。


『メチベル鉱石』

 希少金属。硬度は鉄と同じ位だが魔力を加えると自在に変形可能な為、他の金属と混ぜて使われる。


 ーーーーーー


 本当に稀少な物らしい。こんな物をあっさり渡してくれたという事は、あの時のヴェルは『トンダム商会』としてではなく、個人として、荷馬車や商品を売ってくれたという事た。つまりはお礼も兼ねていたのだろう。......なんだか悪い気がするが、とても有り難い。


「それ少しだけ残してくれ。」


 そんなサプライズに感動しながらも、交渉を通じて始める。だが、希少なアイテムらしいのでいくつか手元に残してもらった。


「分かりました。それでは少し荷台に戻して......これらを全部で金貨15枚で如何でしょう?」


 ......金貨15枚か。それでも充分高いが折角のアイテムだ。もう少し高くなるかもしれないと思い何も言わない。


「......それでは金貨17枚でどうでしょうか?」

 上手くいった様だ。どうやら黙っていた事を難色を示していると思ってくれたらしい。

 だからもうしばらく黙ってみる。


「......金貨18枚。」


「金貨18枚と銀貨3枚。」


「......金貨18枚と大銀貨4枚です。これ以上はお支払い出来ません。」


「分かった。じゃあそれで頼む。」

 黙っていただけで交渉が成功してしまった。

 その時、頭の中に声が聞こえてくる。


〈スキル『悪徳商法Lv.1』を獲得しました。〉


 ......なんて外聞が悪いスキルだろう。悪徳商法って......別に悪い事してないのに


「それでは、こちらが金貨18枚と大銀貨4枚です。」

 そう言ってお金を渡してきた。

 だがそれだけで話は終わらなかった。


「そちらの奴隷も綺麗に手入れなされていますね。如何でしょう?今流行りの猫人族の奴隷と交換いたしませんか?」


「は?」

 今なんて言ったんだ?


「で、でしたら金貨3枚お付け致します。」


「いや、結構だ。」

 あくまで冷静に答える。

「金貨5枚!どうですか?」


「......もう一度だけ言う。結構だ。売るつもりは無い。」

 店の人を睨みつける。


「ひっ!......そ、そうですか。では気が変わったらまたいらしてください。」

 そのまま、荷物を持って急ぎ足で立ち去ってしまった。


「......悪いな、ミレナ。嫌な思いをさせた。」

 タイチは、そう言ってミレナに頭を下げる。


「いえ、大丈夫ですよ。それに怒ってくれてとても嬉しかったです。」


「そ、そうか。......そういえは今さっきスキルが手に入ったんだ。久しぶりにステータスでも見よう。」


 恥ずかしさを誤魔化す為に無理やり話をそらした。


「『鑑定魔法』!」


 ーーーーーー


【名前】竜崎 太一

【種族】????

【性別】男

【状態】平常

【筋力】A

【防御】B

【魔力】B+

【俊敏】C+

【スキル】

『賢者』『古代魔法適正』『奴隷王』

『格闘術Lv.2』『呪術魔法Lv.1』『龍神の加護』

『悪徳商法Lv.1』

【主従】

『ミレナ』を所有


 ーーーーーー


 よく見ると、俊敏がCからC+に上がっている。それにスキル『格闘術』のレベルが上がっていた。

 少しずつ自分が成長出来ているのがとても嬉しい。


「ミレナのも見てみるな。」


「え?」

 その瞬間ミレナの顔がこわばったような気がした。


 ーーーーーー

【名前】ミレナ

【種族】????

【性別】????

【状態】 ????

【筋力】????

【防御】????

【魔力】????

【俊敏】????

【スキル】???

【主従】

『タイチ』に隷属


 ーーーーーー

 ......何も見れない。鑑定魔法を失敗してしまったのだろうか。だけどステータス自体は見れているので、ミレナの方が何かしたのだろうか?


「あ、あのご主人様。ステータスを覗くのは夫婦だったり恋人だったり家族がするものなので、鑑定魔法だからといってあまり人のステータスを覗かない方がよろしいかと。」


 つまりはミレナの方から見れないようにしたらしい。

 ......それにしてもそうだったのか。今までそんな事を考えずにステータス確認してしまっていた。という事はずっと、不審者的な行動をしてしまっていたという事だ。幸い気づいた人は居なかったようだが、魔法を使える人なら気づかれるかもしれない。

 これからは、相手に確認をとってからやろう。


 たけど、少し、ほんの少しだけミレナに拒否られた事がショックだった。


「そうか......悪かったな、ミレナ。......お腹減ったろ、屋台で何か買ってくるよ。」

 恥ずかしさやら何やらでこの場から逃げ出してしまいたかったタイチは、屋台を口実にして素早くその場を去って行ってしまった。



 そしてその場には、荷馬車とミレナ1人だけが残ったのだった。

「......ごめんなさい。ご主人様。でもこれを見たらきっとご主人様は変わってしまう。酷くて最低で自分勝手な私を許してください。」


 ーーーーーー

『ミレナ』

 危険度EXTRA

 特殊発生した


 ーーーーーー


「大好きです。ご主人様。」



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