第27話 初級魔法

 馬車に揺れながら、タイチたちは道無き道を進んでいた。

「んー。やっぱり馬車はきついな。」

 そんな中タイチはというと......酔っていた。馬車酔である。


「大丈夫ですか?」

 ミレナは心配そうにこちらに体を向ける。

「まだ馬車には慣れないな。そろそろ慣れないといけないんだろうけど。」

 タイチたちが旅を始めてから、2日が経った。

 初めは道に迷ったりして大変だったが、次第に他の人々が通っていた道というものが見えるようになり、順調に新たな街への道を進んでいる。


「ご主人様はあまり乗り物に強くないんですね......」

 そう言って、ミレナはタイチの背中に触れた。

 するとタイチの吐き気がみるみるうちに回復していくのだ。


「回復魔法です。またきつくなったら言ってください。」

 ミレナはそっと手をタイチから離した。


「いいなぁそれ。俺も欲しいな。」

 タイチはミレナが魔法を使える事を羨んだ。

 現在、タイチが使えるのは古代魔法の2つのみでしかも二つともデメリットがあるというオマケ付きなのだ。

 するとミレナは静かにタイチの隣から立ち上がり荷物などが置かれている奥の方へと行き、本を1冊取り出してきた。


「それじゃあ今から魔法の練習をしませんか?......ここじゃ危ないことは出来ないので生活魔法だけですが。」

 その本は以前盗賊団のアジトから持ってきた魔道書の初級本だった。


「一緒に頑張りましょう。」

 まだミレナも回復魔法しか使えないらしく、一緒にやることにした。タイチには文字が読めないのでミレナが代わりに読んでいく。


「えっとですね.....この本に書いてある魔法は初級なので今回は生活魔法の『ライト』を練習します。いいですか?」

「まぁそうだな。」


 するとミレナはこちらに身を寄せてくる。

 どうやら本の内容について教えてけれるようだ。


「それじゃあ、読みますね......


 ここで君たちに教えるのは生活魔法の『ライト』だ。何?折角魔法が使えるのだから凄いのをやりたいって?だったら、他の魔術書で学んだら良い。

 だがそれは難しいだろう。なぜなら魔法も鍛錬の積み重ねだからだ。そう簡単に聖級魔法なんて使えないのは誰でも理解できるだろう?

 その為最初は簡単な魔法を学び、少しずつ難しい魔法に挑戦していって欲しい。


 この魔法はその名の通り辺りを明るくする魔法だ。自分の近くに光源となる物を作り出すのだ。

 これは初級の魔法だがきっと君らの役に立つだろう。

 この時大切なのは自分の中にある魔力だけでやろうとしない事だ。周りにある魔力を感じ取って上手く活用していくことで魔力の負担を減らすことが出来る。

 それではこれを習得出来る事を祈る......」

 そこで『ライト』についての説明が終わった。


「なんかざっくりとした説明だな。」

「魔法はイメージが大切ですからね。このぐらいの方がいいんじゃないでしょうか。」

 そんなもんなのだろうか。


「それじゃあ......『ライト』!」

 しかし何も起きない。

「あれ?何も起きないな......『ライト』!」


 それでも何も起きない。

 何かが起きるような気配させしないのだ。ミレナの方はどうなのだろうか?

 タイチはミレナの方へと視線を向ける。


「闇を照らす......『ライト』」

 ミレナがそう言った瞬間、辺りに暖かい光の球体が生まれた。

 その光はミレナの側に留まっている。


「......凄いな、もう出来たのか?」

 ミレナは今の一瞬であの魔法を成功させたのだ。


「いえ、簡単な魔法なのでご主人様も慣れたらきっと出来ますよ。」

 ......その簡単な魔法が出来ていないのだが。

「なんかコツはないのか?」

「そうですね......自分の中の光を外に押し出す感じで......」


 ふむ、なるほど光を押し出す感じか......

「『ライト』!」

 すると目の前に巨大なギロチンの刃が表れた。


「解除ぉぉ!!なんでやねん!?」

 タイチは全速力で魔法を解除し、ギロチンを引っ込めた。

このままでは、自分達ごとギロチンにかけられるところだった。


「ご主人様は一体何を?」

ミレナが疑問に思ったのか尋ねてきた。当然答えられるわけが無い。

「いや、俺にもどうしてこんな事になったのか分からないんだ。」


むしろこちらが教えて欲しいくらいだ。

「もしかしたら......ご主人様には特殊な魔法素質があるのかもしれませんね。」


「それは......」

思い当たる節があった。というかそれしか考えられ無かった。確かにあの時、全魔法適正が修整されて古代魔法へと変化したのだ。もしかしたらそれは、普通の魔法を犠牲にして覚えたという事なのかも知れない。


「悪い、ミレナ。俺はやっぱり魔法の練習はやめておくよ。」

だとしたらこんなにも虚しいことは無いだろう。絶対に出来ないことを闇雲に練習するなんて。それよりもこの古代魔法が暴走しない様に気を付けなければならないのか。

「そうですか......それでは、街についたら魔法に詳しい人の所を訪ねてみましょう。」


タイチはその考えに驚いた。確かに、この世界には魔法に詳しい人が沢山いるはずなのだ。だとしたらきっと今の状態についても知っているかもしれない。それを勝手に諦めてしまっていた......


「そうだよな......折角異世界に来たんだ。もう諦めたくは無いな。」


前の世界では、圧倒的な理不尽の前に何も出来なかった。だからこそこの世界では自分の好きなように生きていたい。そうタイチは思ったのだった。











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