第26話 後日談

 ある所に一匹の龍がいました。


 その龍はお腹が減っていました。神様が命令して、生き物を殺す事が出来なかったからです。代わりに与えられたのは、小さな種でした。龍はその種を植えました。

 するとその種はすぐに大きな世界に姿を変えました。

 龍はその世界の生物を食べようとします。しかし神様はそれさえ許しません。龍は眺め続けました。来る日も来る日もその大きな世界を眺め続けました。......ずっとずっと。


 ☆☆☆


「んー。......ここは何処だ?」

 タイチは、全く知らない場所で目が覚めた。何処かの家の中だろう。部屋には光が差し込み、今は日中であることが分かった。


 その時タイチは、自分が今生きていることを不思議に思った。


「(そういえば俺、あのザキルって奴に胸を刺されて......死んだんじゃ。)」


 ガタッと体を起こそうとすると、体にかかる重さを感じた。


「......何だミレナか。」

 側ではミレナが座ったまま体をタイチが横になっているベットに倒して寝てしまっていた。

 という事は、倒れていた所を助けられミレナによって看病されていたのだろうか。


「...ご主人様?ご主人様!!」

 ミレナは目を覚まして、タイチを認識するとそう言って、タイチに抱きついてきた。


「わっ!ど、どうしたんだ?ミレナ。」

 ミレナがこんな事をするなんて状況が最早分からなかった。


「あぁ、ご主人様。ご主人様!」

 ミレナには聞こえていないのか、抱きついてきたまま返事が無い。


 そこに何故か猫まどろむ亭のゴーヴェンがやって来た。


「......そうか、坊主気が付いたか。」

 そうしみじみとタイチを見つめながら呟いた。


「(怖っ!!なんだこれ!?)」

 タイチは状況を把握するべく、ゴーヴェンに今までのことを聞いた。


 すると様々な事が分かった。

 タイチは魔狼の牙に殺されそうになった事

 猫まどろむ亭が巻き込まれた事

 討伐した盗賊団が領主と関わりがあった事

 そして...それらを壊滅させた事。


 ......正直に言うと恐怖を覚えた。ミレナがそのような事が出来るということが身勝手だが怖かったのだ。

 きっとミレナは今までも人を躊躇いなく殺してきたのだ。自分とは関係が無いから。大切な物の為に。復讐の為に。


 本来ならタイチはこれを咎めて、ミレナがもうこんな事をしない様に言わなければならない。それが日本人としての正しい事だ。

 しかし、タイチには出来なかった。ミレナが自分の為にしてくれた事だったから。それに今までここまで尽くしてくれた人に出会ったことなどなかった。その為タイチはたとえ間違ってるとしても、ミレナを否定しなかった。


「......そうか、迷惑かけたな。ありがとうミレナ。」

「もう絶対に置いていかないでください。私、どうしたらいいか分からなくて......ご主人様がいなくなるなんて嫌です。絶対...」

 きっと、相当な苦労が有ったのだろう。ミレナは言葉に詰まりながらそう言った。


「あぁ、ごめんな。約束するよ」

 そう言ってミレナを抱き締めた。


 ☆☆☆


「何だ、また坊主は寝ちまったのか?」


 タイチがまた寝てしまったところにゴーヴェンさんがやってくる。


「みたいですね。まだ完全に回復したわけじゃないみたいです。」

 ミレナはタイチの体に手を置いた状態で座っている。


「ありがとうございます。あの事を秘密にしてくれて。」

「あぁ、それはお前達の問題だろうからな。だが......あれは何だったんだ?」


「......あれも私ですよ。」


 タイチは一つだけ失念していた。それはミレナ一人でどうやって魔狼の牙を殲滅したかという事だ。ゴーヴェンは戦えるだろうがそれでも一つのパーティーを殲滅するには充分ではなかったのだから。


 だからこそ、ミレナはあれを行った。

 だけどそれはまだご主人様には言いたくなかった。絶対に言わなければならないその時までは。


 ☆☆☆


「うっし、これで全部だろ」

 ゴーヴェンさんにも手伝ってもらい荷馬車に商品を載せていく。


「ありがとう、助かるよ。」

 タイチは、ゴーヴェンに頭を下げた。


「いや、礼を言うのはこっちだ。店建て直す資金貸してもらったからな。いつか必ず返すからこの街に戻って来たらいつでも来てくれ。」

 そう行って、ゴーヴェンは去っていった。


 あの日から5日間がたった。この街では領主が殺害された事が話題になっている。あの後、不正の証拠などが次々と発見され、領主には新しい人がつくようになったらしい。

 そして魔狼の牙では、熟練者が軒並み行方不明になってしまった為、アタリがリーダーとなり新しい魔狼の牙としてやっていくそうだ。


 そしてタイチたちだが、この街を出ることに決めた。領主を殺した犯人だとなった時、ゴーヴェンやラウラというお世話になった女の人に迷惑がかかることを避ける為だ。

 ラウラがやっているという『クインズ商会』だが、領主の不正発覚とともに負債もデタラメであった事が分かり、無事立て直し始めてるという。


 それにやりたい事というのも見つかった。

『黄昏の地』には龍神が住まうと言われている。

 だとしたら、どうしてもその『黄昏の地』に行かなければならないように感じるのだ。


 だから、タイチたちは北へ向かうことに決めた。『黄昏の地』は北にあるらしいから。


 そこで、移動手段を考えていた時に『トンダム商会』のヴェルに出会った。

 そして馬車で物を売り渡しながら北へと向かうという方法を教えて貰ったのだ。そして商会で馬車と、他の街で比較的高く売れる様な商品を売ってもらったのだ。若干手のひらを転がされたような気がするが......


「よし、行こうか。」

「はい、ご主人様。」

 タイチは即席で習得した馬車の操作方法を実践するべく、馬の轡を握り締めるのだった。





 〜〜第1幕『龍神の巫女』 完



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る