第24話 拷問ゲーム
その日、ミレナ達は『クインズ商会』の中にいた。作戦として魔狼の牙をここに呼び寄せて始末する為だ。
「上手くいくでしょうか?」
ミレナにはこの作戦が成功するかどうかが心配でしょうがなかった。ここにはご主人様であるタイチがまだ眠っているのだから。
そこにゴーヴェンさんがやってきて言う。
「大丈夫だ。あいつらが襲ってこようとクレハと坊主ぐらい俺が守ってみせる。」
ご主人様はゴーヴェンさんのステータスは圧倒的に高いと言っていた。だとしたら任せてもいいのだろうか......
「暗くなってきました。そろそろ準備を始めましょう。」
ラウラさんがそう言って、部屋に明かりを灯し始めた。
そしてミレナは黒いコートを被り物陰に隠れた。別室ではゴーヴェンさんがご主人様とクレハちゃんを見てくれている。後はもうやるしかない。
ミレナはその手に一つの武器を持って待つ事にした。
「(出来ればこんな物に頼りたくはなかった。)」
そしてしばらくの間身を潜めて待っていると、窓ガラス壊れる音が聞こえた。
「へへっ!こんばんはー。ラウラさんいますかー。ってかラウラさん以外いないでしょ。破産寸前の商会にいる奴なんて。」
その男は手に剣を持ってこの家に入ってきた。そしてそれに続いて男が二人、入ってくる。
「明かりがついてある場所に女はいるはずだ。行くぞ。」
男達は家の中を我が物顔で進んでいく。
そしてついに明かりのついてあるこの場所へとたどり着いた。
「こんばんはー。ラウラさん。悪いけどここで死んでもらいまーす。」
男達がラウラさんのいる机の位置まで少しずつ近付いてくる。
そしてミレナが隠れている物陰の目の前を通り過ぎた時、
「へへっ。ラウラさん結構色気ありますねー。どうです?俺の言うこと聞いてくれたら生かしてあげますよ。」
「本当にあなた達は下らない。」
ミレナはその男の腕を掴み無理やりへし折った。
バキッという鈍い音がその場に響き、それに驚いた男達が剣をミレナに向けた。
「なんだ!?お前!?」
その男の質問には答えず、ミレナは淡々と男の腕を掴んではへし折った。
「「「ぎ、ぎゃあああ!?痛ぇえええ!?」」」
そしてこの場にいる3人の男の腕をへし折った後にミレナは男達の質問に答えた。
「私の名前はミレナです。冒険者タイチの奴隷です。......知ってますよね?冒険者タイチの名前。」
こいつらがご主人様に危害を加えた仲間だと考えたらそれだけで殺したくて殺したくてしょうがなかった。でもそれをやるとこれからに支障をきたしてしまう。 だから素直に従ってくれる事を願った。
「な、何のことだよ!!俺達は知らない!!全部魔狼の牙がやってるんだ!!」
この男をよく見てみると以前会ったことのある人だった。名前なんてどうでもよくて忘れてしまったが。
「そうですか......まぁどちらでもいいです。それよりも、依頼者が新しい依頼をします。今回の首謀者組織全員を明日の夜、領主の城に連れてきてください。」
この男は今、魔狼の牙がご主人様を殺そうとしていたことを証言したのだ。だったらもうこいつが直接関わっていようが関係無かった。
「っは!絶対に嫌だね!!俺達はアニキに拾われてここまでやってきたんだ!アニキ達を裏切るくらいなら俺はここで死んでもいい!」
この男は、そんなどうでも忠誠心を見せてくる。
だが、これは私にも参考になる部分かもしれない。と、ミレナは今とは全く関係の無いことを考えたりした。
なにせ、この男がどんなに忠誠心があろうが大した問題とは捉えていなかったのだから。
「仕方ありませんね......だったらこちらの言う事を聞く気になったら言ってくださいね。......ラウラさん、すみませんが別室に行ってくれませんか?あまり人に見られたくないですから。」
「そう、分かったわ。ミレナさんも気をつけてね。何かあったら言って」
そう言って、ラウラさんはこの部屋を後にした。
「......今から私とゲームをしましょう。」
「は!?ゲーム?どういう事だ!?」
男達のリーダーである人がそう尋ねる。
「いえ、簡単なゲームです。こちらに従っていただけるまであなた達の誰かを傷付けます。その方は限界だと思ったら別の方の名前を喋って下さい。その方を傷付けます。これならあなた達が忠誠心を見せて頂ければ私もあなた達に無理やり言う事を聞かせないで済みます。」
そう言うと、ミレナは手にしていた指輪に魔力を通した。魔道具『仮想の苦痛槍』はまさにこんな時の為にあるような物だった。
ミレナは取り敢えず、右にいる男に槍を突き刺した。
「っ!!痛い!痛い痛い痛い!!痛い!!」
男は叫び始めた。だがミレナは容赦無く槍を刺し続ける。
「言っておきますけど、この槍での痛みは絶対に収まりません。慣れるだなんて生温い事考えない方がいいですよ。そこの人、どうですか?痛いでしょう?今、あなただけがその苦痛を味わっているんです。あなた達のお仲間も、あなたが忠誠を誓っている人もあなたの苦痛を知らない。」
「よせ!聞くんじゃねぇぞ!!」
「だ、だったらルサンが変わってくれよ!!俺もう限界だよ!!」
ミレナはその言葉を聞き逃さなかった。
「それでは、次はルサンさんの番ですね。あぁ、あなたのその傷は治してあげます。」
そう言って、ミレナはさっき槍で傷付けた部分だけは回復魔法で治すのだった。
「ご、ごめんなさい。お、俺は......」
だが、治して貰った男は未だに死にそうな顔をしていた。それもそうだろう。自分が原因で次は仲間のルサンが傷つくのだから。
ミレナはルサンという男に槍を突き刺した。あくまで魔道具による痛みを引き出すために槍は少し刺さっている程度にしておく。
「おい!何しやがるんだ!!っ!痛ぇえええ!!?」
その瞬間ルサンには耐え難い地獄のような痛みが流れ始める。体中を切り刻まれる様な痛みが延々と流れ続けるのだ。
「痛いでしょう?痛みで気を失いそうですよね?でも痛みが続いて無理やり正気に戻すんです。辛いですよね?捨て駒として利用されるだけされて、最後はここでずっと、死ぬまでこの痛みが続くんです。」
「っ!おい!お前らどっちでもいいから変わってくれよ!!痛くて死にそうなんだ!頼むよ!仲間だろ!!......もういい!トウキ!トウキに変わる!左側の奴だ!!」
これこそが、ミレナが思い描いていた光景だった。自分の為に仲間を犠牲にする。犠牲にしたことで仲間からは恨まれ、自身は仲間を売った罪悪感に囚われる。
むごたらしい事をしているが別にミレナには拷問の知識がある訳ではなかった。しかしミレナの環境が悪かった。
自分を人として扱ってくれない同じ龍人達、奴隷になってからはサンドバックとして生かされその後は薬漬けにされる。
そこに光を与えてくれた人こそがミレナのご主人様であるタイチなのだ。そのタイチが傷付けられた事は、昔自分に優しくしてくれた祖母が死んだ時の事を自然と思い出させてしまった。
その結果こそが大切な人の為なら、どんな事でも平然と行う事が出来る化物をミレナの中に作り出した。
「それでは、可哀想ですがトウキさん。次はあなたの番です。是非あなたの大切な仲間の為に頑張って下さい。」
「や、やめて、やめてください。」
男は震えてもう最初の頃の面影など全く無かった。
この男達がミレナの支配下になるのに時間は1時間もかからなかった。
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