第23話 魔狼の牙

「なぁ、ザキル。この前のクエストはいつ再開するんだ? 」

屈強そうな男が一人の男に話しかける。その男は屈強そうな男と比べて幾分小さかった。しかしここではこの小さい方の男の方が立場は上であった。


「そうだなぁ、魔狼の牙としては別にあのクエスト止めてもいいんじゃないかなと思ってる。危険だしね。」


「......それは、あの時タイチという冒険者がはぐれて死んでしまったからか?」


「まぁね。だから、皆のためにもこのクエストはやめておいた方がいいと思うんだ。だろう?アタリ。」


ここは魔狼の牙のアジトだ。ここには合計30人者人がいる。そのリーダーこそがザキルであり、それを支えるのが副リーダーのアタリだ。

だが、魔狼の牙には裏の顔があった。ザキルを含めその半数は悪事の依頼もひっそりと受けるのだ。この事は正義感が無駄に強いアタリや入ってきたばかりの新人には知らされていない。


「まぁ、そうだな。じゃああのミレナって子にはどう説明する?こちらのパーティーに引き入れるか?」

その言葉にザキルは思わず舌打ちをひっそりとしてします。


「(またこの馬鹿は面倒事に首を突っ込むのかよ......)」


「いや、大丈夫だろう。あの子は奴隷だ。所有者がいないならどこか別の奴が今頃新しい所有者になっている筈だ。もう俺らには関係がないだろう。」


「そうか、じゃあ何か新しい依頼を探してくるよ。」


「あぁ、よろしくな。」

そう言うとアタリはその部屋を出て行った。ギルドに依頼漁りでもするんだろう。


そこに最近こっち側にやってきたルサンがやってきた。こいつは基本的に直感でしか行動出来ない馬鹿だが悪事に罪悪感を抱かないという才能はある。


「へへっ、アニキ。めっちゃスゲー依頼持ってきましたよ。なんと一人の女殺すだけで金貨3枚。標的は『クインズ商会』のラウラっていう女らしいっす。」


つまりは裏の仕事という訳だ。


「ルサン。依頼してきた奴はどんな奴だったか覚えているか?」

無駄だと思いながらそう聞いた。


「いや、顔は隠れていて分からなかったっす。分かった事と言えば男だってくらいで......」


まぁ、そうだろう。こういう裏仕事に顔出して来るような奴はいない。それを含めての金貨3枚なのだろうから。また領主絡みの依頼なのだろうか。

領主は金払いが悪いから面倒くさいんだが.....


「で、でも金はもう貰ってきました。前金に金貨1枚。成功したら金貨2枚らしいです。」


......なんか怪しいな。金払いが良過ぎるのも不気味に感じる。だが依頼を知ったからには俺達は受けなければならないし、詮索をしてはいけない。そういうルールが出来上がっているのだ。


「そうか......だったらこれはお前らに任せる。お前らがこれに成功したら金貨1枚はお前らの好きにしていい。......それに幹部候補も考えてやろう。」


ルサンは金貨が1枚しか貰えないという部分に不満そうな顔を見せたが、魔狼の牙の幹部候補という事に表情を明るくした。


「了解っす!俺らに任せといてください!絶対にこの依頼どおり、この女ぶっ殺してくるんで。」

そのままルサンは部屋から走って出ていった。


......馬鹿はこういう時に使い勝手がいい。使い捨てても魔狼の牙には何らダメージが無いし、捕まって拷問されてもパーティーの後ろめたい事の証拠は何一つ持っていないのだから。


ザキルは紅茶を飲みながら、果たして金貨2枚が手に入るのかどうかを考えていた。


☆☆☆


それから一日が過ぎた時昼頃だった。

魔狼の牙のリーダーの下へ一人の男が近付いてきた。


「ァ、アニキ。昨日の依頼どおりあの女をこ、殺してきました。これ、報酬の金貨3枚です。」

そう言ってその男、ルサンは金貨3枚をザキルへと渡さして来た。


「?どうした。この金貨1枚はお前達の取り分だろ?」

ザキルは昨日の依頼が罠などでは無いことにホッとした。その上で金貨を3枚とも渡してきたルサンを疑問に思ったのだ。


「い、いえ。俺らは結構です。それよりも新しい依頼なんですけど......話は夜、領主の城でするそうです。報酬は金貨50枚。前金で金貨10枚。」


「本当か!?金貨50枚!?破格の報酬じゃないか!?」


ルサンの挙動不審ぶりは不思議に思ったが今はそんなどうでもいいことにかまっている場合じゃない。大方人を殺した時の感触とかで具合が悪くなったのだろう。こいつの事を過大評価していたようだ。


そんな事よりも金貨50枚だ。まさか領主からの依頼だとは思わなかったが金払いが良いのなら大歓迎だ。これには魔狼の牙のこちら側の全員で挑んだ方が依頼者にとっても気分が良いだろう。そしたら深い関係にもなれるかもしれない。


「そうか、分かった。今回は俺達全員でやろう。まぁもちろんアタリ達は無視してだが......。」


まずは全員に呼び掛けなければならない。そしてアタリ達には怪しまれない為に適当なクエストに行かせる。やらなければならない事が次々に出てくる。


「これも全部金の為だ。久しぶりに頑張るとするか。」


ザキルはひとまずアタリ達を引き離す為の手頃なクエストを探しにギルドへと向かうのだった。


そのつぎの日、魔狼の牙壊滅。そして領主惨殺の知らせが『ノストック』を駆け巡ることになる。








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