第20話 コモドドラゴン
私はまず、今何をするべきかを考えた。
生きていくにはお金が必要だ。私達は今金貨30枚以上持っている。でもご主人様はお金を稼ぐ事が出来る環境を作っておく事が大切だと話していた。もし今持っているお金が無くなった時に対処出来るようにするらしい。
だったら、私だけでも冒険者としてクエストを達成していきランクを上げていくのがいいと思った。
だから私は冒険者ギルドへと向かった。ご主人様を置いていくのは気が引けるが、それでもやらなければならない。
「あの、クエストを受けたいんですけど......」
いつもはご主人様がやってくれて、初めて自分でクエストを探す。
「はい、どのようなクエストですか。」
実はまだ何のクエストを受けるか決めていなかった。
「あの、ランクが早く上がるクエストとかありませんか?」
「はぁ、ランクを上げるには地道にクエストをこなすのが一番だと思いますよ。」
まるで、言い慣れているかのようにスラスラとそう言った。実際言い慣れているのだろう。こんな質問。
「お願いします。どんな危険なクエストでも構いません。何かありませんか?」
ご主人様が目が覚めた時喜んで欲しいから。
「そうですか。......実は一つだけあります。ですが危険度は高く、依頼報酬も微々たる物です。そんなクエストでも受けますか?」
「はい!危険もなのも報酬が少ないのも構いません!!」
すると受付の人は奥から多くの依頼書が挟まって作られた本を読み持ってきた。
「それではどうぞ。一応Eランクのクエストになっています。」
渡された依頼書を見てみる。
コモドドラゴン討伐
これがEランクのクエストの中で最も効率の良いクエストらしい。
「これをクリアしたらランクアップ出来ますか?」
「え?えぇ、もちろんです。クリア出来たらの話ですが......」
「コモドドラゴンについて教えてくれますか?」
私が全力で挑めばきっとやれるはずだ。
「本気ですか?まぁいいでしょう。
......コモドドラゴンはドラゴンの劣種です。ですが侮ってはいけません。普通に空を飛びますし火を吹きます。サイズも人と比べたら遥かに大きいです。レベルとしてはAランクに匹敵します。」
「分かりました。受けます。」
「......そうですか。では依頼を確認します。依頼内容はコモドドラゴンの討伐。この時この依頼による損害は一切ギルドは負いません。成功報酬は銀貨1枚。宜しいですね?」
この質問に対する答えなんて決まっていた。
☆☆☆
ここは、凪暮れの渓谷と呼ばれている場所だ。この渓谷にコモドドラゴンいるらしい。
「確かに何かがいる気配がありますね。」
取り敢えず辺りを探索していく。この服のおかげで、比較的楽に行動ができる。
「そろそろ準備をしておきましょう。」
服に魔力を通す。すると服が鎧へと姿を替えたのだった。しかしそれでいて重さはほとんどないため冒険者に最適だ。
「クルウァァァ!!」
その時、私の少し上を大きな物体が通り過ぎていった。
......来た!!
急いで剣を構える。
私の少し先にコモドドラゴンが立ちはだかっていた。そのコモドドラゴンは左右に翼が生えていてそのほかの場所にも小さい翼があちこちに付いていた。
そのコモドドラゴンは、素早く私の所まで走ってきた。翼で速度を上げているのだ。
「っ!!」
危なかった!素早い突進を間一髪、右に避ける事が出来た。あの巨体でぶつかられたらそれだけでただでは済まない。
そして突進によって空いた隙に剣を突き刺そうとする。
しかし、更に加速して逃げられてしまう。
またコモドドラゴンは突進してくる。
「初級地魔法『大地の壁』!」
うまく行けばこの壁に衝突して隙が生まれるはず。
「クルウァァァ!」
だが、コモドドラゴンは止まらずに衝突しそのまま空中から戻ってくる。
......間に合わない!
戻ってきたコモドドラゴンの衝突を回避する事が出来なかった。慌てて剣を構えて受け止めようとする。
コモドドラゴンが剣へと接触しそのまま私にぶつかってくる。強い圧力が体にかかる。
「ぐっっ!」
そして吹き飛ばされて、後方へと追いやられた。
剣を見ると完全に折れて使い物にならなくなっていた。
......まぁ、剣を使わない方が楽だ。
剣をコモドドラゴンへと投げ出す。
するとコモドドラゴンはそれを避けて大きく右を向いた。
その間に近づき拳を握り締めローズ振り下ろす。
コモドドラゴンは殴られた方向へと大きく傾いた。
剣を使うとどうしても速度が落ちてしまう。素手で戦った方が性にあっている。
そのままコモドドラゴンへと蹴りを放つ。それはコモドドラゴンの意識を刈り取るのに充分な一撃だった。
その後、折れた剣でコモドドラゴンにトドメをさした。
「......終わりましたね。待っていて下さい、ご主人様。目が覚めた時に絶対に喜んでもらえるように頑張りますから。」
そうつぶやき、コモドドラゴンの討伐証明になりそうな角と心臓部分にある魔石を取り出した。
☆☆☆
「......本当に討伐したんですね。あんな滅茶苦茶な依頼。すこしお待ち下さい、ギルドマスターに話してきます。」
そう言ってギルドの人は奥の部屋へと消えていった。
そして少し経って、
「ギルドマスターが呼んでいます。ギルドマスターの部屋へどうぞ。」
案内されるままに部屋へと入る。
「やぁ、おや?今日はミレナちゃん一人かい?」
確かこの人は、ギルドマスターのトルトンという人だったはず。
「すみません、トルトンさん。ご主人様はちょっと今ここには来れなくて......」
「そうなのか......まぁそれはそうとコモドドラゴン討伐の依頼、達成したんだって?」
「はい、ギリギリでしたけど......」
するとトルトンさんは手元にある資料に何かを書き込んだ。
「よし!おめでとう。これで君は今日からBランクだ。本当はコモドドラゴンに勝てるんだからAランクでも文句ないんだけど、流石にAランクまでギルドマスター権限で上げるのは無理があるからね。権限でBランクにさせてもらったよ。」
「え?でもEランクの次はDランクでは!?」
いきなりBランクにまで上がってしまった。流石に一回のクエストでそこまで上がるのに違和感があった。
「いいのいいの、コモドドラゴンを一人で討伐した人なんてAランクでもなかなかいないから。そんな人材は早く活躍してもらわないと。」
やはりコモドドラゴンはEランクで太刀打ち出来る様なクエストでは無かったのだ。
「......どうしてあのクエストはEランククエストだったんですか?」
あまりにもおかしい話だ。難しいクエストなのにそれを受ける対象の人はほとんど初心者なんて。
「あぁ。それはね、報酬が原因だよ。報酬が少ないから自然とランクが低くなってしまったんだ。だから助かったよ。あのままだとギルドからの依頼としてAランク以上に頼まないといけなかったからね。」
「そうですか。では有り難くランクアップさせてもらいます。それでは......」
「あ!待って!実はまた盗賊の遺品を引き取りたいっていう人がいるんだ。どうぞ入って。」
そうドルトンさんが言うと、部屋から一人の女性が入ってきた。
「あなたは!前の騒ぎの時の!」
私は驚いた。目の前にいたのは、少し前に騒ぎがあって男の人に絡まれていた女性だったのだから。
「......この前はありがとうございました。」
その様子を見ていたギルドマスターが話し出した。
「もしかしてどこかであったことがあるのかな?じゃあ軽めに紹介をしておくよ。こちら『クインズ商会』の会長をしているラウラさんだ。そしてこちらBランク冒険者のミレナちゃんだ。」
「はい。よろしくお願いします。」
商会の会長だったようだ。だが、どこか雰囲気が暗い。
「......あの、ごめんなさい。実はあの指輪私の主人の物だったんです。でも今余裕がなくて.....」
つまり、引き取りたいけどお金がないという事らしい。だったらどうするかもう決まっている。
「それでしたら、お金はいりません。どうぞ指輪を持って帰って上げてください。」
きっとご主人様ならこう言うだろうから。
「え!そんな......でも...ありがとうございます。このお礼は必ず返します。」
ラウラさんは目尻に涙を溜めてそう言った。
「それでは、私はこれで失礼します。」
早くご主人様に会いたい。きっとすぐに目覚めてくれる。だからそれまでにとっても喜んでもらえるように頑張るのだ。
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