第21話 崩壊の予兆

そして、猫まどろむ亭へと帰ってきた。


「お姉さん、おかえりー。」


「......帰ってきたか。残念だがあの坊主はまだ寝てるんだ。夕食を食え。」


そう言って猫まどろむ亭の人が帰りを迎えてくれた。


部屋へと入るとご主人様がベットに横になっている。その顔を見るだけで心が満たされる気がした。


「ご主人様。今帰りました。」


だけど、返事は返ってこない。ご主人様はずっとベットに寝たままだ。


「起きて下さいよ......ご主人様。」


「ねぇ、本当は起きてたりしませんか?......ごめんなさい。ご主人様を疑うなんて奴隷失格ですよね......」


「そうだ!今日の出来事を報告しないと......」


「ご主人様......私なんとBランクになったんですよ。」


「コモドドラゴンっていう魔物を倒したんですよ。コモドドラゴンってドラゴンと全然姿がちがうんですね。体のたくさんの部分から小さな翼が生えてました。その翼を動かしてもの凄い速く移動するんです。もう本当に速くて、私の龍人としてのステータスでもついていくのがやっとだったんですよ。あ、でも私剣を捨てて素手でやった方が力が出せるみたいです。剣の重さ私には合わないんじゃないかなと思います。それでコモドドラゴンを倒したらトルトンさんが私をBランクにしてくれたんです。やっばりギルドマスターにはそういう事ができる権力があるんですね。これでご主人様が起きた時、一気にBランクまでのクエストが受けられます。もしかしてご主人様こういう魔物討伐が嫌いだったりしますか?でも大丈夫ですよ。絶対に私が守りますから。あれ今何の話をしてたっけ?あぁそうだ。その後にですね、少し前に出会った女性いたじゃないですか?その人、ラウラさんっていうんですけどその人が盗賊の遺品を引き取りに来たんですよ。......ごめんなさい。私の独断で指輪渡しちゃっいました。でもご主人様ならきっとこうするだろう思ったんです。ご主人様は誰よりも優しいですから。きっとあの人もかなり辛い経験をしたんだと思います。そう考えると今の私はきっと恵まれているですね。優しいご主人様に綺麗なお部屋。食事だってまさか他の人と同じような物を食べさせていただけるなんて思ってもみませんでした。全部ご主人様のおかげなんです。」


「......だから、起きてくださいよ。ご主人様。言ってくれたじゃないですか。二人で幸せになるって。ご主人様が起きてくれないと幸せになれないんですよ。一人ぼっちにしないで下さいよ。」


あぁ、だめだ。涙が止まらない。こんな所ご主人様に見せるなんて......


私は、ご主人様に少しでも近づきたくてベットの端に寝転がりご主人様に腕を絡める。


「こんなことしたら、普通なら殺されちゃいますね。......ご主人様なら許してくれるかな......」


そして眠気に襲われ、そのまま眠気に身をゆだねた。


幸せな夢だった。ご主人様と旅をしている夢だ。


一緒に馬車に揺られながら街から街へと旅をするのだ。もちろん何もしないわけにはいかないから後ろには商品が売られていて、それを売る。

いわゆる行商人をやっている。ただご主人様は優しいから他の奴隷も助けていって私の他にも奴隷がいるのだ。みんなご主人様を愛していてご主人様の為に生きている。

そして私はご主人様に甘えようとしてご主人様に後ろから抱きつこうとする......


「おい!!逃げるぞ、火事だ!そこの坊主は俺が担ぐからお前は荷物持って逃げろ!!」


その大きな声に目が覚める。どうやらベットで寝てしまったらしい。

そして部屋の中にはゴーヴェンさんがいた。


「っ!!どうしたんですか?」


一瞬、今の状態を見られて固まってしまったが、そんな事をしている場合じゃ無いようだ。


「火事だ!!どっかに火がつけられた!とりあえずこの宿から出ろ!煙を吸うなよ!?意識飛んじまうぞ!」


「は、はい。ご主人様は私が守ります!」

とにかくご主人様をここから安全な場所まで運ぶのだ。ゴーヴェンさんが担いでくれるといったが、私の目の届かない所にご主人様がいて欲しくなかった。


☆☆☆


外へ出ると燃えていた、何もかもが。あの可愛かった看板も、店そのものも。


幸いご主人様には一切の傷が無かった。だけどこの店がなくなっていくのか辛くてしょうがない。

ここは私の新しい人生の象徴みたいな場所だった。ここを拠点にしての生活は楽しかったのだ。生まれて初めて奴隷として主人に仕える喜びを知った。


「......お父さん。お店が燃えちゃってる。」

クレハちゃんが呆然とお店が燃えてしまっているのを見ていた。


「......燃えてるな。」

ゴーヴェンさんもどこか心ここにあらずの様子だった。


「大丈夫ですか!?」

そこに、騒ぎを聞きつけたのか一人の女性がやって来た。幸い怪我人はいない様だ。今日はたまたま私たち以外の宿泊客は居なかったらしい。


「はい、怪我人などはいません。ってラウラさん!?どうしてここに!?」

そこには昨日あったばかりのラウラさんがいた。


「私の家はそこにあります。なので何かが燃えている音を聞いて慌てて駆けつけたんです。」


嘘をついているようには見えなかった。本当にこの騒ぎを心配して来てくれたのだろう。


「不幸中の幸いとしてはこの店が川のすぐそばにある事ですね。これなら火が燃え移る心配はないと思います。......皆さん家へどうぞ。ここにずっといるのは体にも精神的にも悪いです。」


ラウラさんは冷静とそんな事を言ったのだった。


「そんな言い方はないと思います!ゴーヴェンさんとクレハちゃんにとってこの店は大切な場所な筈です。だったらきっと最後まで......」


「いや、ラウラさん。世話になっていいか?」


ゴーヴェンさんがそう言ったのだった。


「いいんですか?ゴーヴェンさん?」

ワタシには理解が出来なかった。大切な場所が燃えているのにそこから立ち去るなんて......


「あぁ、このままだとクレハが取り返しのつかない傷を負ってしますかもしれない。その前に他の場所で寝かしてやりたい。」


「分かりました。私の家に行きましょう。そこでこれからについてお話しましょう。」


そして私たちは燃えているお店を後ろにしてラウラさんの家へと向かった。



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