第5話 俺が生きている中で最悪だった時期について話そう...今だよちくしょう!

 あれから、3日間が経過した。俺達はまだ、戦闘訓練を行った後に、『女神の祝福』の力の訓練をおこなっている。

 しばらくはこの調子で続くのだろう。

 そう思っていた時だった。俺は皆が部屋に戻った後、1人で剣術の訓練をしていた。そんな時、


「ぐはあああ!!」

 俺の背中に高い熱を持った何かが飛んできたのだった。

「ごめーん。ちょっと手が滑っちゃった。」


「ぎゃははは」という笑い声が辺りを占める。


「ごめん!俺も手が滑る!!」

 そして、俺の脚めがけて鎖が絡みつく。


「うわきっも!縛られて喜んでるんじゃない?やばいわー、リアルなSMとかキモッ!」


「......いったい何のつもりだ?」

 こいつらが何故俺にこんな事をする?


「いやー理由なんて別に無いんだけどさー?うちらにも心っていうもんがあるんだよね。分かるでしょ?あんな偉そうな奴の言う事をなんで聞かなきゃならないんだよっていうさ」


「それとこれが何の関係があるんだよ!」


「だから理由なんてどうでもいいでしょ。とにかくストレス発散手伝ってよ。」


 そう言うと、倉敷は俺を蹴り上げた。

「ほら、ご褒美でしょ。ありがとうございますは?」


 蹴られた衝撃で肺の空気が外に出てしまい声が出ない。


 その間も、倉敷は俺を蹴り続ける。


「ていうか、元々はあんたが悪いんでしょ。あんたが勝手に私達のやってる事に口だししてきたんじゃん。私達にはルールって物があるの、それを部外者の癖に割り込んできたからこうなるんだよ。」


「なになに、俺もやる!」

「じゃあ、私もやろっと」


 そう言って、俺を蹴る足の数が増えていった。

 俺は頭を庇うことに必死になっていた。



 ......どれくらい、時間が経っただろうか。もう何時間も蹴られてる様な気がする。だが、もしかしたら、まだ数分しか経っていないのかも知れない。


「んー。なんか飽きてきたなー。蹴るだけってのも芸が無いし...そうだ!ここって、剣もあるしスイカ割りしようよ」


 スイカ割り?このタイミングでどういう事だ?


「別に、ここじゃ怪我しても直ぐに治せるでしょ。魔法あるし。じゃあやってみよー。誰からやる?」


「あ!じゃあ俺やるよ。やっぱ勇者は経験で強くなると思うんだよね。」


 嘘だろ、そんな事流石にしないよな?人としてダメだろ。


「おい!何をやってる!やめろ!」


 クソ!!鎖が邪魔で身動きが取れない!


「スイカが喋ったら駄目でしょ。」

 そう言って倉敷は俺の口に布を詰めた。


「よし!じゃあスイカ割り始め!」


 それからの事はあまり覚えていない。確かな事は、その時、俺の右足が切断されたという事。そしてその後、発見された俺は王宮魔道士によって治療されたという事だった。


 ☆☆☆


 城の中には、普通の人が入る事が許されない部屋が有る。一つは、牢獄。そしてもう一つは王室である。そこには、今この国で最も権力を持つ者、すなわち王がいるのだった。


「陛下!早急に御報告したい事が御座います!」


 王室に1人の従者がやってくる。


「なんだ、人が折角、銘酒に酔いしれている時に。」


「勇者の1人、竜崎太一が同じく勇者の者によって負傷しました。命にかかわるものでは無いものの足が切断されており、現在治療中です!」


「ふむ。喧嘩か?」


「いえ!複数によって暴行された様です!」


「そうか、なら直ぐに教会に治療の依頼を......。いや、そうだな......その勇者の『女神の祝福』はなんだ?」


「勇者、竜崎太一の能力は『奴隷頼み』という能力だった筈です。使い道を見つけるのに苦心しているとか。」


「そうか、なら適当に義足でも付けて森の奥に捨ててこい」


「よろしいのですか?他の勇者から反感を買いませんかね?」


「大丈夫だろう。その者は奴らの中じゃ地位が低い様だ。勝手に城から出ていった事にしたら誰も問題にしないだろう。それにその暴行を加えた者達も貸しを作ることが出来る。使えない奴を切り捨てて最も大きい利益を得る。それが社会の基本だ。」


「分かりました。それでは完全に眠らせた後、ここから離れた所にある森の中に捨ててこさせましょう。それでは失礼します!」


 そう言うと、従者は準備をすべく王室を後にしたのだった。


 ☆☆☆


 気が付くと俺は森の中にいた。


「(は?なんで俺こんな事になってんの!?確か俺、倉敷達に足切られた後、王宮魔道士によって治療されてたはず......。)」


「(そういえば、血が止まった後、治療してくれてた人が急に離れていって......俺急に眠くなったんだ。)」


 俺には義足が着けられていた。偽足といっても、日本にあるような立派な物でなく、足の切断面を布で覆いその先に細い木が付けられたものだった。


 そして、その状態で俺1人が森の中にいる最早、どうしてこんな事になっているのかなんて、明らかだ。


 俺は捨てられたのだ。森の中にいるという事は死んでも構わないという事だろう。


「(俺、死ぬのか......。)」


 嫌だ、絶対に死にたくない。絶対に生きて、この森から抜け出してやる。


「(まずは、水が必要だな。)」


 人間は、約60%の水で出来ており、そのうち20%が失われると死んでしまう。その為人間は4〜5日間水を飲まないと死んでしまうのだ。


 俺は川を目指して歩く事にした。そして、立とうとした時だった。


「痛ってえええええ!!!」


 俺は地面をのたうち回った。足が焼けるように痛いのだ。そして直ぐに原因が分かる。この義足のせいだ。これが足の切断面に圧力をかける為激痛が走るのだ。


「(駄目だ...これじゃあ歩く事は出来ない。しょうがない、這って進もう。)」


 俺はゆっくりと、手の力で地面を進んで行ったのだった。

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