第2話 正義を貫くって難しいな...

 子供の頃は誰もが、ヒーローに憧れていた。

 誰もが、自分の信じる正義を通そうと躍起になっていた筈だ。


 だが、それは次第に社会という組織によって、塗り潰されていく。社会にとって都合の良い事が、『善』であり、『善』に従わない事が『悪』となる。

 誰もがその事に異議を唱えない


 それを人は成長と呼び、成長しない者を集団で潰すのが『正義』となってしまった。


 そして、今この学校でもその『正義』が執行されていたのだった。


「そんな!俺はそんな事していません!!」

「竜崎!!いい加減にしないか!お前に襲われたって、証言があるんだ!それにクラスの子達も証言している!いい加減に認めないと警察沙汰にするぞ!」

「違う!俺はそんな事しない!全部あいつらの口からでまかせだ!」


 俺、竜崎太一りゅうざき たいちは、今、クラスの女子を襲ったとして、学校を辞めさせられようとしていた。俺はそんな事をしない。


 俺は両親を早くに無くし、施設で育った。そして、奨学金等を利用して何とか高校に進学する事が出来たのだ。


 俺はクラスでは、あまり人と話す方では無かった。だが、クラスの人からいじめられるまでは無かったのだ。


 だが、そんなある日事態は一変する。


 クラスの1人がいじめにあったのだ。きっかけが何だったのかは分からない。だが、その日から彼女...橘美咲たちばな みさきはクラスの人からいじめられたのだった。


 俺は、無視を続けていた。いじめに関わるとろくな事が無いからだ。


 彼女へのいじめはどんどんエスカレートしていった。机は既に変形して、まともに使える状態では無かったし、彼女がびしょ濡れだった事も少なくは無かった。


 そんなある日、彼女へのいじめは遂に援助交際をさせようとするにまで至った。


 俺はもう無視をする事が出来なかった。これを無視したら人間として終わりだと感じてしまったのだ。俺はいじめていたクラスの連中を殴り飛ばし、彼女と先生に相談しに行った。

 その時、先生は真剣にその話を聞いてくれて、これでいじめが無くなる。そう思っていた。


 そして今日、俺はクラスの女子を襲い妊娠させたとして、学校で糾弾されているのだ。


「今のクラスの状況を考えたらそんなの嘘だってすぐに分かるでしょう!」


 俺はそう先生に訴えかける。


「...竜崎。今すぐ学校を辞めろ。それで彼女は訴えないと言っているんだ。」


 なんでこの先生は俺の事をこんなに辞めさせたがっているんだ ?


「......先生はいじめについてどう考えていますか?」


「このクラスにいじめは無い!!全部お前らの妄想だ!!」


 ......この先生は俺達を潰す事でいじめを隠そうとしているのか。

 そりゃそうか、考えたら分かる事だった。あんなに悲惨ないじめだったんだ。担任が気付かない筈がないのだ。


「......俺は、もう学校にはいられないんですか?」


 俺が辞めることについて発言すると、先生...中田は嬉しそうに声を出した。

「そうだ。だが、クラスの人にお別れぐらいはさせてやる。教室に行くぞ!」


 そうして中田は、俺の手を引っ張って教室へと向かうのだった。


 ☆☆☆


 クラスでは、それぞれが好きな席に座り、自由に会話をしていた。

 そして、橘も友達と一緒に仲良くおしゃべりをしていた。

 ......橘も、最近は何もされていなかった。だから全部解決次第と思ったのに


 そして、クラスの中へと入っていくと

「あれー!なんでここにレイプ魔がいんのー?さっさと消えてよー」


 そう茶髪の奴が言う。

 こいつは倉敷。いじめの主犯格だ。


 こいつがそう言った途端、周りの数人が笑い出した。笑ってる奴がいじめに関わっていた奴等だ。


 右から浅村、桜野、阿部、志村が男子で、

 野際、黒羽、水戸そして倉敷が女子。こいつらがいじめを行っていた。


「ほら!水戸も何か言いなよ!この人に襲われましたって!」


 そして再び「ぎゃははは」という品の無い笑い声が辺りを占める。


 そして中田が声を上げる。


「えー。竜崎は一身上の都合で学校を辞めることになった。」

 すかさず倉敷が口を挟む。

「警察が怖いから逃げますでしょ。」


 そしてまた品の無い笑いが生まれる。


 ......俺はこんな奴らのせいで学校を辞めさせられるのか。


 そんなふうに絶望していた時だった。


 地面をぼんやり眺めていると、どんどん地面が近付いてくるのだ。


 ーー違う。俺達が地面にめりこみ始めているのだった。


 そしてこの日俺達は、異世界へと転移したのだった。

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