第30話 再び向き合った夢

81・流れ者が現在に行き着くまで


(剣での扱いにもだいぶ慣れてきた。実戦で使うことになっても、これなら形にはなりそうかな。)


 明くる日、フレッドは自身の心に向かい合うべく朝からレオーラ湖畔で武芸の鍛錬を行っていた。一通りの素振りを終えると、鞘を組み合わせていない龍ノ稲光を正眼に構えつつ息を整える。剣といっても長い柄を持つ龍ノ稲光のため、槍で培った技術の大半は流用できる。しかし槍を正眼に構えることはなく、ここからの動きには不慣れなところがあった。踏み込んでの突きや、柄の末端を打ち付けてからの斬撃、左右に飛び退きながらの返し斬りなどの動きを毎日のように繰り返している。そしてこの鍛錬は、フレッドを思考の世界に誘う儀式の一つでもあった。


(自分の心に向き合う……か。しかし改めて考えると、これはなかなかの難問だ。なにせ「何を以って自分というか」もはっきりとは分からないのだから。まずはこれまでの自分を振り返るか……)


 クロト=ハイディン改めフレッド=アーヴィン22周期。かつてユージェ王国の王都だったユーライアにてL1004収穫期79日に生まれる。両親と7周期離れた兄がいるも、後に兄は死別。10周期の頃、父や兄との武人の差に絶望するも、将としての道へ進むことを決める。11周期より成人までおよそ5周期の間、マイアー=ベルトラン先生らの教えを受ける。この期間の学友にフィーリア=ダルトンがいて、その従姉にあたるライザ=ダルトン先生にも随分と絞られたものだった……。


(こう思い返すと、やはり自分は恵まれていたのだと痛感する。ハイディンの家に生まれたことも、学ぶ環境があったことも、厳しくも優しい周囲の人たちにも。)


 満16周期に入る前、ウルス氏族との和平交渉に向かった兄が謀殺され、兄の家督を継ぎハイディンの当主となる。この後はウルス氏族への特赦を皮切りに南西部の諸族を平定し、ユージェ王国の南西部統一を成す。およそ2周期ほどの期間でそれを終えたが、急ぎ過ぎたせいか随所に綻びが垣間見えていた。もっともそれに気付けるのは、あくまで今思い返せばの話であるが。


(ユージェのときは、大義や目標しか見ていなかったから失敗したのかな?もっと周りの人々を見て、大義など抱かぬ人のことも考えていたなら、恨みを買うこともなかったのかもしれない。しかしマイアー先生が幽閉されている事実を考えると、結局のところ早いか遅いかの違いでしかなかった気もするなあ……)


 満19周期になる前、統一連合への基盤固めを終えユージェを去る。暗殺者などを振り切りつつ中央山脈を越え、そしてザイール辺境州に入りヘルダ村へ行き着いたのが20周期になる前であった。


(私個人のことだけを見れば、統一以降はロクなことになっていないな。もっとも、ユージェを出なければヘルダ村に来ることはなく、ここに来なければ出会うこともなかった人々も多い。差し引きで考えれば得をしているんだよね。たぶん。)


 初めてブルート=エルトリオの戦いぶりを見たときは、兄が姿を変えて蘇ったのかと思ったほど似通った力強さに驚いた。その兄と刺し違えた人の姉、テアがこの地にいたことにも驚かされた。マレッドの使う独自の治療術の出鱈目っぷりはもちろん、遠いとはいえ先祖が異界の住人という話はかつて経験したことのない衝撃を受けた。ほかの誰かに忠を捧げるダウラスの生き方は、兄を支えて生きていければよかったという自分の夢に通じるもので、それが叶う彼を羨ましく思っているのかもしれない。フォンティカはパーティメンバーの中では力がないことに引け目を感じていたが、それは父や兄と比べ差に絶望したかつての自分の姿に重なる。そのためか、貴重な道具を譲ることにも抵抗はなかったのだ。


(まあ私には思わずつまんだり引っ張ったり撫でたくなる耳や尻尾はないですけどね。ただ、何かしら別の方法で生きる道を見出したのも似ているかな?)


 そして、その子とも仲のいいリリアン。初めてヘルダ村に来て最初に会話をした住人で、教え子たちの中では最年長だったせいか、他の子の面倒もよく見る娘だった。


(そうか!。あの子が年下を甲斐甲斐しく世話する姿を見てどことなく落ち着いたのは、かつてフィーリアさんにしてもらっていたことを無意識に思い起こしていたからかもしれない。もちろん、今の自分がそうしてもらいたいわけではなく、子供の頃の懐かしい思い出、郷愁のようなものが蘇るに過ぎないが……)


 となると、やはり自分は今現在もユージェに残してきた人を想っているのか。フレッドはそのことを考えてみるも、そうだと言い切る自身はなかった。仮にそうなら、両親には「冒険者の仕事で少し家を空ける」とでも説明して一人ユージェに戻り、強引にでも連れ出すことはできたはずなのだ。


(あれは「もう会えなくなる」という要素が、ほんの一瞬だけ二人の炎を燃え上がらせただけか?しかし、好きか嫌いかと問われれば好きだったと言い切れるしなあ。ただ、私が自分の意志を強く示し他人にも気が使えるような人に惹かれるのは間違いない。それは女性に限らず……だが。)


 フレッドはそれまでに出会い、強く記憶に残った人々のことを思い返す。彼らはみな、表現の仕方に差はあれど自らの意思をはっきりと示してはいた。それに比べ、自分はどうなのだろう。説明を求められれば、不足がないように言葉を尽くしてはきたつもりだ。しかし求められていない時や、特に必要だと思わない時にも言葉を尽くして自分の意思を表明したことはあっただろうか。


(してないな。だいたい「意味がない」「無用のもの」という理由を付けて、私は必要と思えることしか話してこなかった。しかし相手が心を読む術を使うわけではないのだから、話してみなければ本当に意味がなかったか、必要なかったかなんて分かるわけもなかったんだよね……)


 考察を進めながらも、フレッドの素振りは速さや激しさを増し、ついに型の最終段階に至る。裂帛の気合を込めた薙ぎ払いを繰り出し、鍛錬をひとまず終了しようと考えていたものの、気付かぬうちに客人が訪れていたようであった。それまで黙々と武器を振るっていたフレッドがいきなり鋭い掛け声を上げたためか、それに驚き転んでしまったのだ。


「鍛錬が終わるまでお邪魔するつもりはなかったのですけど、急に大きな声を出されたので驚いてしまって。これ、フォーディ様から託された朝ご飯です。」


 立ち上がりながら、リリアンはフレッドに手提げ袋を差し出す。フレッドが家を出た後フォーディはリリアンの下を訪れ、レオーラ湖畔にいるフレッドに朝食の詰め合わせを持って行かせ二人になる時間を作る計らいを見せたのだった。



81・流れ者が心に隠してきた夢


『わざわざ持ってきてくれてありがとう。君を前にして一人で食べるのもなんだし、よければここらあたり一緒に食べましょうか。』


 フレッドはリリアンから袋を受け取り、中身を確認しつつそう声を掛ける。父のような大食漢でもない限り、一人で食べきるには明らかに多すぎる量が詰め込まれたその袋には、母から「二人で食べながらお話でもしなさい」というメッセージが込められていたのだ。予想が当たっているなら色よい返事が返ってくるであろうし、フレッドは鍛錬を終了すべく深呼吸して澄んだ湖畔の空気を取り入れながら、流れるような動きで龍ノ稲光を鞘に納めた。


「それでは同席させていただきますね先生。あ、もう少し先へ行くと昔に流れ着いた大きな流木があるので、そこでお弁当を広げましょう!」


 そう言うとリリアンはフレッドの手を引き、流木がある場所に向け前を歩き始める。かつて少年だったフレッドも、こうして少女に手を引かれ導かれたことが幾度もあり、ついそのことを思い出さずにはいられなかった。自分には父や兄に並び立てる男になるという目標があって、そこへ至るためにムダな時間は使っていられないと周りに目を向けなかった結果、同年代の学友からは疎外され味方といえばただ一人のみという有様。そして今も、基本的な部分は変わっていない。しかしもういい加減、変わらなければならないのだ。



 流木に腰を掛け、テーブル代わりにして朝食が始まりしばらく経過して、リリアンはやや戸惑っていた。フレッドは説明するときこそ懇切丁寧で長くなることも多いが、それ以外のことに関してはどちらかというと口数は少なかった。それを「あの人は説明で言葉力を使うから、普段は溜めているのだろう」などと茶化す者まで出る始末なのだが、いま向かい合っている人は別人かと思うほど「とりとめのないこと」まで話してくれるのだ。そして話が叛乱後のことに及ぶと、さらに驚くこととなった。


『あれは、悔しかったね……決まってるさ!でも彼らが「私とブルートさんで軍事も政治も握ったら歯止めが効かず怖い」というのはよく分かる。だからザイラスを追われたこと自体はどうとも思っていないけど、私が権力を濫用する可能性がある人間と思われたことはとても悔しい。私はそう思わせないよう定めた軍規は遵守してきたはずだし、そもそも権力を求めて戦ったことも、そんなもののために兵を死なせたこともない。ただ、より良き未来を求めていただけなんだ!』


 リリアンはあの夜のフレッドの話を聞いていたので、その続きがどうなっているかの予想はついた。彼は「なのに誰も彼も、権力を求め成り上がろうとする。ユージェでも、そしてこの皇国でも。しかも自分たちがそうだからといって、私までそれと同類に見なしている。まったく冗談じゃない!」と言いたいところなのだろう。だがフレッドはリリアンがユージェ時代のことは知らないと思っているので、言葉を続けられなかったのだ。


「でもユージェの人たちにはうまく伝わらなくて、ザイールの人たちにもうまく伝わらなかった。皆さんには「より良き未来」という目に映らない先のことは見えていなくて、現在を生きることで精一杯。わたしだってそうですから、皆さんの気持ちはよく分かります。先生が求めた「より良き未来」ってどのようなものなのですか?教えていただいても完全には理解できないかもしれませんけど、時間のムダになるだけかもしれませんけど……でも教えていただかないとわたしには分からないんです!」


 最初にリリアンの口からユージェという単語が出てきたときは、肝が据わっている部類であろうフレッドも驚いた。しかし話の続きを聞くにつれ、やはり自身の想いを積極的に伝えようとしなかったことが主な原因であるのだと痛感させられる。ユージェにいた時も、ここへ来てからもフレッドは自身の描く未来像の最終形態を誰かにはっきりと語ったことはない。それは現在の立憲君主制という統治機構を否定するものであり、叛逆者の謗りを受けかねないため迂闊に話し得るものではなかったからだが、それに至る途上にあるものくらいは説明できたはずなのだ。


 『その通りだね。確かに私の想いはみんなに伝わらなかった。私が伝える努力を怠ったこともあるし、伝えられても困るかもしれないという遠慮もあったから、ずっと自身の心の内に留めておいたんだ。でも、私はいつか世界もその答えに至ると考えているし、その過程で分かってもらえることもあるだろうと……そう思って話すことを諦めてきた。それではいけなかったんだね。』


 そう前置きして、フレッドは自分の夢見た未来を語りだす。現在は皇国の皇帝や統一連合の盟主という君主が存在し君臨しているが、そういうもののない国にしたいと考えていたのだ。ただ君主だから、それに任命されたからというだけの理由で政治を行うから、ゼニス=キーヴォのような男が上に立ってしまう。それを防ぐには叛乱軍のようなより強い力を持つか、そのような男が選ばれないようにするしかない。


 「領主様を、村長様を選ぶようにみんなで決めるんですか?ザイールを一つの村に見立てて、国中の人が誰がいいかを決める……?」


 リリアンは政治の話に興味がある年齢でもなく、話も大きすぎて今一つ理解できていなかった。しかし、自分たちで選べば少なくとも前領主のような人が選ばれるはずがないだろうということは分かる。そして、ああいう人が選ばれさえしなければ今回の叛乱のようなことが起こり、人が死んでいくことがないということも。


『そうさ。成人すべてが自分で国の未来を考え、この人になら任せてもいいという領主を選ぶんだ。もちろん、選ばれる前は調子のいいことばかり言う人も出るだろう。だから「この人が言っていることはウソか、もしくは実現可能性は低いから信じない」というような判断は求められるよ?でもね、皇帝なり盟主なりが勝手に選んだ領主がいい人なら楽しく生きられて、悪い人だったら最悪の人生が待ち受けているなんてあんまりだと思わないかい?私はそれをなくしたいんだ。』


 もし選ばれた領主がここで言う悪い人ならば、最悪の人生を送ることになっても選んだ側の責任になる。しかし上の命令で派遣された領主がいいか悪いかの責任は、領民が背負うべきものではないはずなのだ。そして君主と貴族や豪族が支配する時代がおよそ1000周期も続けば、持つ側と持たざる側の差は埋めようがないほど広がる。持つ側は才能がなくとも要職に就いてしまうのが常であった。そのことが、持たざる側をさらに痛めつける悲劇を呼ぶのである。


「でもお偉い人たちはそんなこと認めませんよね。自分たちが好き勝手にできる権利を手放すとは考えられませんし、やっぱり今回の叛乱みたいに勝って認めさせるしかないのでしょうか?でも相手が国とか皇帝陛下とかじゃ、とても勝てるようには思えないですけど……」


 確かに真正面からぶつかれば皇国にしろユージェにしろ勝てるはずはない。フレッドが自分の夢見た世界を実現するには、どこかの勢力を乗っ取りそこの統治機構を変えるという方法もあるが、これはユージェで失敗に終わった。統一連合の有力者は既得権を手放すことを頑なに拒み、逆に命を狙われたフレッドは失意からユージェを去る。次に考えられる手段は、そういう統治機構の新たな勢力を作ること。ザイールはその条件に適しているが、それには皇国やユージェと肩を並べる力が必須なのだ。


『だから、皇国とユージェが戦い両者が傷つくのを待つんだよ。私に恨みを持つ人がユージェの指導者である限り、いつか大軍勢で攻めてくるだろう。それを撃退できれば、皇国としても二度目はさすがに許さぬと懲罰戦争を仕掛けるはずさ。しかしユージェには、それを退けるであろう人がいる。使いたくなくても使わざるを得ない人がね。あのマイアー先生が出てくれば皇国は一敗地に塗れ退くだろうけど、懲罰戦を仕掛けておきながらタダの負けで帰るわけがない。必ず両者痛み分けに近い形に持ち込むはずなんだ。それを選んだら、かなり凄惨なことになるだろうけどね……』


 その機会を見計らって、ザイール辺境州は皇国からの独立を宣言し第三極となる。皇国がそれを認めず攻め寄せる可能性はあるが、そうなればユージェと共闘すればいい。ユージェとしては皇国に付け入る機会であり、同時に皇国の目を自分たち以外に向けるチャンスともなる。この第三極がユージェにとって深刻な脅威とならない限り、生かして利用する道を選ぶ可能性は非常に高いのだ。


「そうなれば先生が言う「より良き未来」を実現できるんですね!そうかあ、ここが先生の国かぁ……わたしもぜひ見てみたいです、その国を!」


 フレッドの予想はあくまで上手く事が運んだ場合の話だが、リリアンはその成功を疑ってはいなかった。彼女にとって命の恩人で、故郷の村や辺境州を守り救った英雄はこれまで失敗しておらず、しかしそれは幸運や偶然が重なることで得られたものではないことをよく知っていたからだ。あれほどまでに考えて考えて、それこそ食事や睡眠を忘れるくらい真剣に悩み考え抜いて見出した答えを信じなければ、何を信じていいというのかという思いであった。


『私の国って……私は領主に立候補する気はないよ。もしそうなったら、やっぱり軍に参加する事になるんじゃないかな。第三極といっても最初のうちは皇国やユージェとの差は歴然だから、それを三竦みといえる状況まで持ち込む間に少なからず戦争もあるだろうし。』


 フレッドにとって夢は自分が権力を握ることではないので、選ぶ側にはなれど選ばれる側になるつもりはなかった。そしてしばらく後のことだが、フレッドはその話を振られるたびに「もう夢は叶いました」と言って話を打ち切り、政治に口出しはしなかった。それは終生まで貫かれ、フレッドが政治指導者の職に就くことは一度もなかったのである。


『でも課題は山積だよ。ブルートさんがここの政治を主導しているうちにユージェへの備えを固めてもらって、その上で彼にこの計画の賛同を得ないといけない。叛乱軍の時と変わらぬ理想を持ち続けてくれたなら賛同してくれると思うけど、権力を持つと変わってしまう人がいるのもよく知っているからね。それでも……それでも私の夢見た世界を見たいと思うなら、一緒に目指してくれるかい?より良き未来を。』


 フレッドには確かに打算もあった。リリアンが秘めている思念を飛ばす術の才は、比類なき戦略・戦術的価値があるからだ。勢力差を考えれば劣勢の中で戦う機会ばかりと思われる以上、それを使わなければ勝機を見いだせないこともあるかもしれない。しかし、そうやって巻き込んでしまうからには責任を取るべきだろうとも考えていた。もっとも、この時はあくまで「同志」への勧誘であり「伴侶」への求婚ではなかったが、もう一人のほうはといえば勘違いしていないにもかかわらず完全に舞い上がってしまっていた。


「わわ、わたしでよろしければっ、いつでもどこにでもお供いたします!こここ、これからもずっと一緒ですね。よろしくお願いしますっ!!」


 そう言いつつ、差し出されたフレッドの手を取ってから胸に飛び込んだ。この人は内心どうあれ拒否したりはしないという打算もあってのことだが、いつも頼りにしかしてなかった人に初めて同じような立ち位置で頼りにされたことが、本当に嬉しく感極まってしまったのだ。


『この先は本当に苦労をかけるかもしれないけど、こちらこそよろしく頼むよ。すべてが終わって未来が見えた時に「手伝ってくれてありがとう」と言わせてもらえるよう……私も全力を尽くすこと、ここに誓うから。』


 飛び込んできたリリアンを腕で包みながら、フレッドは赤い髪越しにそう話しかける。もうここに、夢の欠片と砕けた盃から生まれたガラクタ同然の戦闘用傀儡はいない。自らの理想の国を築く夢と両親の安寧という希望どちらも追い求める、未来を信じる心を持って生きていく年相応の若者がいるのみであった。



 この時はL1026収穫期3日午前、後に夫婦となる二人が心を通わせた瞬間だった。流れ者はついに未来に至る扉を開いたが、その扉は気付かないだけで彼の側に存在していた。脇目も振らずひたむきに、ただ理想を求め生きた彼が歩みを止め、周囲を見回すことでようやく気付けたそれは、彼にさらなる飛躍をもたらすこととなる。そしてこの経験について、晩年になり残した回顧録にはこう記された。


『想いを寄せれば言葉を持たない獣や物品とでも心を通わせることができるのだから、言葉を持つ人とはもっとうまく心を通わせることができるはずである。ただし、それには言葉を正しく使わなければならない。正しく使えないことを恐れ、使わないというのも間違いである。過ちは正せばよいのだから、まずは積極的に言葉を使うことが肝要である……』


 これ以降は人と言葉を交わすことを重んじ、後世に「言説の道標」の名を冠して呼ばれるフレッドの旅は、まだこれから始まるのだ。


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