3 好き

放課後の空き教室で僕は、好きなクラスメイトの女の子に「あなたが好きです、付き合って」と告白された。恥ずかしそうに真っ赤な顔を俯かせ、返事を待つその子。僕がオーケーを出せば喜んで笑い、その顔をあげるに違いない。感激のあまり泣くだろうか。でも僕はそれを望まない。だから断った。

「僕は好きじゃないから」

正しくは、今の君が好きじゃない。そう言いかけたけど我に返ってやめた。僕の返事に彼女は顔をあげたが、悲しみに今にも泣き出しそうだった。大きくて黒い瞳はみるみる涙で潤む。

それを目にした僕は、唇の端が吊りあがりそうになるのを必死で堪える。

彼女はごめんなさい、とか無かった事にして、とかそんな風な事を小声で言ってから、逃げるように走り去ってしまった。僕は彼女に気づかれないよう、周りからみて不自然でないよう、ゆっくりとその後を追う。


校舎裏で泣く彼女を、彼女の友達が慰めているのを見つけて、僕はそれを真上の屋上から身を乗り出して眺める。

彼女の甘い泣き声、細かく震える華奢な肩、涙に濡れた、縺れた長い髪。

僕はそれに満足して転落防止柵に凭れかかり、やっと我慢していた悦びの笑みをもらした。


彼女が悲んで泣く時。僕は、その時の彼女が好きなんだ。

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