2 ほおづえついて

壁一面がガラス張りとなっている、混み合ったカフェの中。

肩を剥きだしたワンピース姿の少女が一人、派手に飾りたてた爪先で執拗に机を叩きながら外を睨んでいた。ガラスの向こうに広がるのは緑あふれる公園。明るい陽射しの中、家族連れや恋人同士の賑やかな笑い声がそこかしこで響いている。

少女の、頬杖をついたその顔に塗りたくられた化粧は、本来の顔立ちを想像できない程に濃い。瞼には分厚い青のシャドウ、人形のように太いつけまつ毛。毒々しい血色の唇。髪は、目が痛くなる程眩しい金に染められている。突如、けたたましい着信音が鳴ったかと思うと、彼女が音の出所であるスマートフォンを耳に当て、大声で話しだした。

「遅い!」

金属を爪で掻くような声に、カフェ中の人々が振り返る。

「まだなの、私どれだけ待ってると思うの!?暇で暇でしょうがないのよ」

ヒステリックな少女の叫びは、彼女の精神状態が危ぶまれる程のものだ。

電話の相手が宥めているのか、鼻息が荒いものの少女は一度黙る。そうして暫く経つと嬉しげに笑った。機嫌をすっかり直したようだ。

「ほんとね、もうすぐね?」

そしてうん、うんと頷き、電話を切って満面の笑みで窓の外を眺めだした。

もう少しで待ち合わせの相手が来るのだろう。そう合点して静かになった少女から目を離した人々は、今度は彼女が何やらカウントダウンを呟きだしたのを聞く。

「十、九、八……」

いつまでも騒がしい少女へ店員が注意を促そうと近づいた時、彼女は「ゼロ!」と言い片手を大きく突き上げた。

すると窓の外で赤い炎が高く上がり、同時に爆発音がしたと思うと、灰色の煙が一面に広がった。

公園の楽しげな笑い声達は忽ち悲鳴となり、逃げ惑う人、蹲る人、助けようとする人々で溢れかる。

ガラス越しに見える嘘のような光景に、カフェの人々はどよめく。その中でただ一人、派手な身なりの少女は満足げに笑いながら立ち上がり、高い靴音の響きだけを残して店を後にした。

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