エピローグ

 リンと別れた後、帰宅したあたしは両親にこっぴどく叱られた。

 何度携帯にかけてもつながらず、本気で心配していたらしい。

 後で確認すると、ケータイはあっさり電源が入り、何件もの着信があった。

 どうしてトカゲの国でケータイが使えなかったのか分からない。

 ただ涙を浮かべる母さんを前にして、わたしは安堵感と申し訳なさがいっぺんにやってきた。

 わたしは母さんに抱きつき、腕の中で泣きながらずっと謝った。

 ひとしきり泣いたあと、わたしは友人の家に遊びに行っていて、連絡を忘れていたと両親には説明した。

 嘘をつくのは気が引けたけど、本当のことを話したところで、きっと信じてもらえない。

 で、日曜日を挟んで週明けの月曜日。

 わたしはいつものように登校していた。

 いつも、って言うにはまだ早いか。

 でも私にとっての日常が戻ってきたって意味では、『いつも』で間違いない。

 とうとう今日から授業が始まる。

 まあ、最初だから大したことはしないだろうけど。

 右手に持った鞄から、教科書やノートが激しく自己主張している。

 それに、授業とは別のものも始まるのだ。

 と、視界の端に小さな何かを捕らえた。

「あ……」

 視点を合わせ、思わず声が漏れた。

 それは尻尾の切れたトカゲだった。

 いや、切れていた?

 そのトカゲの尻尾に切れたような跡はなく、不自然に短いようにしか見えない。

 トカゲはちょこちょこ動いては、めぼしいものが無いか探している。ように見えた。

 わたしは声をかけようとして止めた。

 きっと驚かせてしまうかもしれない。

 またあの国に行ってみたいという思いはあったけど、リンに迷惑をかけたくはなかった。

 ほどなくしてトカゲは草むらへと消えた。

 わたしは止めていた足を動かし、学校へと向かう。

 頭では今日の放課後のことを考えていた。

「テニス部入ろ」

 トカゲを追っかけまわすオカルト研究会は駄目だ。

 不思議は追いかけるものではなく、ひそかに胸の中に抱いておくものだ。

 校門をくぐると騒がしさが一層強まった。

 これから始まるのはわたしの新しい日常。

 でもわたしの部屋には誰も知らない、非日常の証が残ってる。

 あの国に行くきっかけとなった、トカゲの尻尾が。

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ハイダウェイリザードストーリー 水金 化 @spider-lily

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