第7話

 足音が近付いてくる。

 私は横になり、あたかも寝ているかのように演じる。

 足音は牢屋の前で一旦止まったものの、すぐ遠ざかっていった。

 私は物音を立てないように、トイレの穴へと駆け寄る。

 布が掛かっている状態でこれだけ臭いのだから、トイレ内は相当ひどいに違いない。

 けど躊躇っていても仕方ない。

 このまま明日を迎えてしまえば、待っているのはギロチンなのだから。

 私は意を決して布を取り払った

「あれ? それほど臭くない?」

 驚いたことに穴から漂う匂いは弱かった。

 むしろ臭いのは掛けられていた布の方。

 私はほっとして穴の中を覗き込んだ。

 当然ながら何も見えない。どれぐらいの高さがあるのかすらさっぱり。

 ここから逃げろってことだし、それほど高いはず無いか。

 いちいち躊躇っていたらキリがないため、私は穴の中に飛び込んだ。

 ひゅーーーーーー、どさっ。

 結構深かった。しりもちついた。

「いたたた」

 しかしその割にはあまり痛くない。声に出たのは条件反射みたいなもの。

 その原因は柔らかい地面。

 弱いが鼻を変な臭いで、それがなにかすぐに理解した。

「これは土。そう、土」

 見た目……、は分からないけど感触はまさに土。

 湿り気がなく感想しているため、なおのこと土と変わりなかった。

 けして、ウから始まるものではないと自分に言い聞かせる。

 わたしは立ち上がると、遠くにやたら頼りない明かりを見つける。

 多分月明かりだろう。

 慎重に歩みを進めると、光の先へと向かう。

 でこぼこの足元に苦戦いながら、ついに私は外へ出た。

「待っていたぜ」

 途端、待ち構えていたかのように声を掛けられる。

「きっとここから逃げだすだろうと思っていたさ」

 放たれた言葉に、わたしの背筋を冷たいものが駆け抜ける。

 待っていたのは尻尾が切れたトカゲ人間じゃなかった。

 全員が赤い制服を着た、兵士たち。

「数時間ぶりだな」

 先頭にいたのは広場で見た、顔に傷のあるトカゲ人間だった。

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