第5話

 牢屋である。人生初の。

 三方は石の壁。明り取り用窓と扉には錆びの浮いた鉄格子が掛かっている。

 牢屋内にはベッドもなければトイレもない。

 あるのはシーツほどの大きな汚い布が一枚だけ。

 蝿こそたかっていないけど、近付くと超臭かった。

 大きな布からなるべく距離を取り、私は地面に座り込んだ。

 幸い荷物検査されず、囚人服に着替えることもなかった。

 ケータイを没収されなかったのが本当にありがたい。

 あれを取られたら生きていけない。というのは言いすぎだけど、それくらい困る。

 軽い気持ちでやってきたはずが、とんだ大事になってしまった。

 あのトカゲ人間たちからしたら、投獄も仕方ない。

 理解もできるし、納得もできる。でも受け入れられるかと言えばそんなことはない。

 なにせ危害を加えるつもりはないのに、危険人物扱いされたのだから。

 いや、尻尾を切っちゃったし充分危険人物か。

「どうなるんだろ、私」

 誰もいない牢屋にわたしの声が響く。

 現在ここの住人はわたしだけで、見張りもいない。

 どうしても恐怖や不安は押し寄せてくる。

 これからどうなるのだろうか。

 処刑、という嫌な単語が思いつく。

 元の世界なら極刑というものは、すぐに実行されない。

 けれどここは違う。

 住人からして人間じゃないんだし、法律とかが違ってもおかしくない。

 こんなことなら途中で引き返すべきだったかな。

 でもあのトカゲの尻尾を切ってしまったのは事実。

 それを謝らずに戻ることはできない。

 でもここから無事出ることができたとして、あのトカゲに会えるのかな。

 到底できるとは思えない。

 と、足音がした。

 足音の主はこちらへとやってくる。

 そして私の牢屋の前で立ち止まった。

 私を連行したトカゲ人間と同じ格好で、こちらを見つめてくる。

「あなたって人は……」

 トカゲ人間が言った。

 震えた声音は、怯えているようにも思えた。

 ちらりと見えた尻尾は、先っぽが千切れていた。

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