第2話

 日陰に入ると、途端に肌寒さを覚えた。

 温かくなってきたとはいえまだ四月。

 コートこそ要らないが、冬の名残はまだ消えてない。

 寒いのが苦手な私としては、さっさと温かくなってほしいものだ。

 しかし夏のように暑すぎるのも、それはそれで困る。

 まあ、それはともかく。

 小走りに路地を進んでいく私だが、すぐに奇妙なことに気付いた。

 長い路地は右に左に折れ曲がっているのに、ずっと一本道なのだ。

 それだけではない。

 道が何度も折れ曲がっているなら、どこかで日陰は切れるはずだ。

 しかし切れない。ずっと薄暗く、肌寒い日陰のまま、出られない。

 これはいよいよおかしい。

 少し気味が悪かったが、今更引き返すわけにもいかない。

 あのトカゲを見つけて尻尾のことを謝らないと。

 と、とうとう薄暗い日陰の一本道に終わりが見えた。

 視線の先にあるのは日差しの当たる開けた場所。

 こんなにも日の当たる場所が恋しいと思ったのは初めてだ。

 わたしは飛び込むように一本道から抜けた。

「ま、まぶしっ……」

 ほんの少し日陰を通ってきただけなのに、日差しがやけにキツかった。

 ほどなくして目が慣れてくると、自分のいる場所の風景が見える。

「ん? んん?」

 いや、見えていないのか?

 見えているのに見えていない。いやはや哲学的。

 じゃなくて。

 はっきり言えば自分の目が信じられなかった。

 夢? 幻覚? 見間違い?

 試しに頬をつねってみた。痛い。つねりすぎた。

 どうやら目の前の光景は現実らしい。

 あまりに不気味で受け入れられなかったが、逃避を許してはくれないらしい。

 道を行き交う彼ら? が私へと視線を向ける。

 そこにいる人間は、わたしひとり。

 残りは全員、トカゲ人間だった。

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