お土産

「ロシュ……」


 フィシュアは勘定台に追加された根菜の酢漬けの瓶に半眼した。

 ロシュはあるじである少女の睥睨をものともせず、彼女がホーリラの土産として選んだ飾り布ごとまとめて支払いをする。

 その後は、買った品物を受け取るそぶりもない。

 毎度あり、とにこやかに笑った店主が、手元の壺に代金を入れる。壺の底でまわる硬貨の音を聞きながら、フィシュアは代わりに品物を肩掛け鞄につめた。

 買いそびれがないか店内を見渡しながら歩く護衛官の青年の背を、フィシュアは大股で追いかける。

「行きましょうか」

 振り返った彼は、にこやかに笑った。

 肩掛け鞄を握りしめ、フィシュアは肩を怒らせる。

「自分で渡せ」

「あの人、フィシュア様からもらった方が喜ぶじゃないですか」

「そういう問題じゃない」

「そういう問題です」

 けろりと言い放ったロシュに、フィシュアは今回も呆れて両肩を落とした。

 酢漬けはホーリラの好物だ。

 中でもぱりぽりと歯切れのよい野菜のものを好んで食べる。

 皇都でも買えない種類ではないが、この街の酢漬けはうっすらと赤みがかっていて見た目も美しく、味も酸味とは別に爽やかさがあって変わっていた。

 ちょうど昨夜、宿の夕食に出ていたので、そのおいしさはフィシュアも保証できる。

 確かに暑い夏の日にぴったりの、いかにもホーリラが喜びそうな品だった。

 それでもいい加減にしてほしい、とフィシュアは内心毒づきながら、隣接する宿に預けていた馬の背に乗り、皇都への帰路につく。

 この道を皇都から来た時は、ホーリラからフィシュアの好物と一緒にロシュの好物を携帯食として余分に持たされた。

 ホーリラに同じことを言った際も、同じことを返された。

 毎度毎度まるで茶番のように二人の間に挟まれて、やりとりせざるを得ないこちらの身にもなってほしい。

「ホーリラが他の奴にとられたら、許さないから」

 先導する背中に向かって吐いた恨み言は、向かい風にのって後方へ流れていった。


 一向に関係性を変えようとしない二人にとうとう堪忍袋の緒が切れて、無理やり見合いの場を持たせたのはそれから数年後のことである。


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