第13話 動揺

殿が通された部屋は先程の倉庫のような場所と随分と違い、簡易的な応接間のような印象を受ける部屋だった。

嫌に鏡が多く、窓がないところを見ると大きな建物のなかに様々な部屋が用意されているのかもしれない。鏡に関してはマジックミラーとなっており、監視ができるようになっていることも考えられた。


「で、どうしたいわけ?」

「随分とせっかちなお方だ。折角お茶をご用意いたしましたのに。」

「はっ、飲むわけないでしょ。いくらバカでも!」


殿は表面上は先程の言葉を根に持ち憤怒しているように見せかけ相手の動向を探った。

分かりやすく挑発にのることで相手隙を見せれば御の字であるし、見せなくとも別に構いはしなかった。


「ふふふ、そんな風に怒って見せなくてもいいんですよ?貴女は先程のようなことでは怒らないタイプなのは把握済みですから。」


殿の思惑を嘲るようにそう口にした阿男はいらやしく唇を舌で潤すと、ニタリと笑った。


「私たちねぇ、貴方達の事をたくさん調べさせていただいたんですよ。隠してる生い立ち、後ろ暗いことから、過去の栄光、今の幸せまで全部。」

「へぇ、趣味が悪い。それで?私の家族でも、はぎれさんでも人質に取って私を脅すの?」

「ええ、よくわかってらっしゃる。」


嫌な汗が首筋をなぞる。 殿は想定の範囲内だから落ち着けと自分に言い聞かせていた。


「あなた達ほどの実力なら、殺すことは簡単そうだけど社会的地位の高い私の家族をそう簡単に殺せるのかしら?はぎれさんだってそんなやわじゃないよ?」

「殺すだなんて、そんな。あくまで私たちは貴女の心を人質にするのですよ。」


殿は後ろの犬までもニタリと笑ったように見えた。

いつか幼い頃に退屈で途中で放り投げた童話の中で出てきた猫の顔を思い出す。あの猫の名前はなんだっけ?そんな場違いな事を考えたくなるくらいに殿は、なぜか追い詰められていた。


「最近ね、貴女のおうちとご贔屓にさせてもらっているんですよ。それで教えてもらったんです。」


悪い方向に落ちていくのを自覚しながら、動揺していることをもう殿は隠せなくなっていた。


「はぎれさんの病気、治せるかもしれないんでしょう?」


貴女、知っていましたよね。四つの目が殿を見つめたとき、とうとう殿は泣き出していた。

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