第12話 敵

「いってぇ……マジかよ。」


珈琲が目を覚ますとそこは見慣れてきた校舎ではなく、冷たい無機質な建物だった。身体を動かして周りをよく確認しようと、手を動かすとそう簡単に外れてくれそうもない金属の手錠がはまっており、それはご丁寧に柱と珈琲を繋いでいた。


「最悪。」


よく見てみるとここに来る前と自分の服装も変わっており、常に身に付けている装備品を使っての脱出は期待できそうもなかった。


「しかもご丁寧に靴まで脱がせてくれちゃって、まぁ。」

「さすが珈琲先生も所属してるところですね。」

「びっくりしたぁ、気配消さないでもらえますぅ?」


消してないですよ?と言い放つ殿の声は思いの外近い。どうにか首を回して珈琲が声のする方を見ると全く拘束されていない殿が無表情で立っていた。


「ん?どうして殿ちゃんは拘束されてないわけ?」

「まあ、日々の行いの違いですかね。」

「…あんまりふざけてられない感じ?」

「まあ、でしょうね。」


そんな話をする二人に近づく影は、コツコツと、一定の足音を鳴らし、わざと存在を誇示するように二人へと近づいてくる。殺意こそないが、ここに連れてきた奴等の仲間である以上二人の敵には間違いがなかった。

その音に身構える珈琲とは対照的に、殿は特に身構える様子もなくその影が来るのを待った。

ほどなくして足音と共に現れたのは黒い犬の被り物をしたこの場の雰囲気に合わない男と、顔をマスクで隠した長髪の男だった。


「どうもこんにちは、殿しんがりさん。」

「その名前で呼ばないでいただけると幸いです。どなただか存じ上げませんけど。」

「おっと、これは失礼。名前はね、そうだね犬と阿男アダンとでもしておこうか。」


わざとらしく、殿の本名を告げた長髪の男は自らを阿男と名乗り、転がっている珈琲には目もくれず殿を値踏みするように見つめた。


「…目的は?」

「おっと、君がいたのを忘れていたよ、珈琲君。同じ組織に所属していても直接的な面識は無かったけれどお噂はかねがね…」


何て言ったってあの武装高校自殺部隊の先生ですからねぇ。と、マスク越しでもわかるようなニヤニヤとした笑みを浮かべ珈琲を嘲笑った。


「まあ!まあ!二人はどちらかというとあの教頭の被害者!ですからね!」

「ふふふ、被害者とは…犬は面白い例えをしますねぇ。」

「だってぇ、そうでしょう?なにも知らない健全な青少年を集めて手に武器を持たせて、志ある大人を集めて子供たちに人殺しを教えさせてたんですから!!しかも今は全部放って消えてしまった!」


お陰で必要のないバッシングされて、いい迷惑ですよねぇ…?と、男二人は殿と珈琲を煽る。煽り、怒らせ判断力を奪おうとする魂胆があまりにも見え透いており、手口があまりにも幼稚なせいで殿も珈琲も怒りより困惑が勝っていた。


「それで、私達を怒らせて何のために、何をさせたいんですか?」

「怒らせて、だなんてそんな、そんな。」

「被害妄想が過ぎますよ!」

「しかし少しばかり無駄話が過ぎました、本題に入りましょう。」

「入りましょ!」


どうぞこちらへと、別の部屋へ行くことを示唆され、暗に殿一人でそちら側へ行くことを強要される。


「俺には聞かせられない話なわけ?」

「いえいえ、そんな。ただ、珈琲君を動かすのは少し手間でねぇ。後で殿さんから聞いてくたまえ。」

「うん!君はこの非力な子と違って暴れられたら苦労しそうだからね!お留守番!」

「……本当に、日頃の行い故の、この待遇な訳ですね。」


戦力として舐められていることを示唆された殿は吐き捨てるようにいい放ち、わかりやすく顔を歪めた。


「気を付けろよ?殿。」

「……貴方こそ動けないんですから、お気を付けて?」

「まあまあ、そんなに怒らないで、さあ。」

「行きましょ!行きましょ!」


二人の男に連れられ殿の足音は遠退き、扉が閉まる音と共に消えた。


「はぁー。どうしたもんかねぇ。」


後に残された珈琲はわざとらしく怒ったふりをしてついていった殿が無事戻るまで大人しくしているしかないのかと、一人うなだれていた。






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