第11話 回想

「随分ときな臭くなってきたなぁ。」

「……そうだな。」

珈琲と黒蟷螂。自殺部隊を任される教師陣でありながら二人が一緒にいるところを見ることはほとんどない。それは、珈琲が基本的に演習時と黒蟷螂がいない時のみの勤務で純粋に顔を合わすことが少なく、教師二人が1度に駆り出されるような事案も発生したことがないからであった。

「さすがに、俺も真面目に動くとしますか、ね。」

「……そうしてくれると助かる。No.0の実力を持っているわけだからな。」

「よしてくださいよー、下手すると生徒より弱いですよ、俺。」

「……戦闘の実力というのは測りにくいものだが、ここの教師は実力のない優男にはできないよ。」

虫も潰せないような萩原が鮮やかに敵を倒すように、最弱を語るちひろが誰にも負けないように、戦いの強い弱いの評価は難しい。けれどもやはりそこに経験や技術力など、実力の差になるものは確実に存在しているのだ。

「過大評価してくれるなぁ。……とりあえず、俺は軍の方から情報見てきますわ。」

「あぁ、よろしくね。」














―。

珈琲が廊下に出ると夏独特の蒸し暑さが立ち込めていた。

「割りと、空調効いてたのか、この部屋。」

「独り言言ってると禿げますよ……むしろ、禿げて、どうぞ。」

「あたり強いなぁ……カルシウム足りてる?身長足りてないんだからちゃんととった方がいいよ?」

「殴っていいですか?」

「よくないですねー。」

突然出てきた珈琲に対して殿のあたりが強いように、殿と珈琲は相性が悪い。前に出て人を殺めることに美学をもつ珈琲と、後ろで人をなるべく殺さずにいたい殿。前に出て大切な人を救いたい珈琲と、後ろで大切な人を待ち続けたい殿。対照的な二人だと自他共に認めていた。

「……珈琲先生今少しお時間ありますか?」

「は、あ?まぁ、あるけども、いきなり敬語使われると話しにくいですねー。」

若干引き気味の珈琲の言葉に珍しく殿は何も返さず、珈琲の裾を引き空き教室へと誘った。その誘う手が思いの外荒れているのを見た珈琲は、あぁ、こいつも人殺しなんだな、と、どこか他人事のように思っていた。

「この人たちとお知り合いですか?」

教室に着いた途端に、ひらり、と差し出された紙には、ご丁寧に写真つきで連ねられた名前が書かれていた。写真は遠くから撮られたものもあり、さしずめさっちゃーあたりが協力したのだろう。そのリストを珈琲は上から順に流して読み、少しばかり険しい顔で口を開いた。

「お知り合いってほどじゃねーけど、知ってはいるな。俺の同業者ばっかりじゃない。なんなの、これ。」

「最近私をストーカーしてくれてる人ですよ。」

「……随分と趣味の悪い。」

「残念ながら同感ですね。」

もっとかわいい女の子がいっぱいいるのにね?と、冗談を言う殿の顔は笑っておらずリストにいるメンバーが殿に付きまとっていることは事実のようだった。

「で、俺になにして欲しいの?」

「何してくださいます?」

「…そんなこと言うとなにもしないよ?」

「そうですか、残念。生徒思いの優しい珈琲先生なら力になってくれると思ってましたのに。」

「あの、殿さん?ふざけて」

ますか。と続くはずだった声は、いきなり現れた殺気に近い気配に気づいた珈琲の口からは発せられなかった。珈琲が横へ目を向けるとそこには、銃を突きつけられている殿。

「あはは、全く。“穏やかじゃないな?”」

殿が珈琲の口癖を真似たのは皮肉か、否か。

その記憶を最後に珈琲の世界は一時暗転した。








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