第10話 移動
「ほらほら、そんなに警戒しないでよ。なーんにも持ってないからさ。」
ね?と、手のひらをこちらに向けてアピールする珈琲先生は学校で骨川達と遊んでいるときと変わらない雰囲気で、それがさっちゃーにとっては恐怖だった。
「いやいや、普通に怖い、そんな風にされたって腰元に武器ついてたらやられますやん、俺。」
「えー、じゃあ脱ぐ??暑いからよろこんで脱ぐよ?」
「は?いいです。」
言葉と共に腹チラをかましてきた珈琲先生を必死で止めながらさっちゃーは以前殿が呟いていた『珈琲先生は顔はいいけど、ロリコンで半裸になるの好きな露出狂。』という言葉を思い出していた。
「まー、冗談はここまでにして。ホントに危害を加える気もないし、さっきのことはちゃんと話すから、さ。」
ほら、黒蟷螂のところ行こうか?と言われてしまえば拒むこともできず、珈琲とさっちゃーというなかなか無い組み合わせで黒蟷螂のところへ行くことになった。
―。
校舎にはいると嫌に静かだった。
「あ、これ。返すね。良くできてたのに壊してごめんな。」
「……よくわかりましたね。」
「タレコミがあったもんで。」
ねー?と、珈琲がさっちゃーではない誰かに話しかけると、廊下の角から殿が出てきた。
「隠し事ができない男はモテませんよ?」
「仲間内で隠し事はダメでしょ?」
「はっ、珈琲先生が言うと白々しい。……さっちゃーさんお疲れ様です。よかったらこれどうぞ。」
さっちゃーは、よく冷えたスポーツドリンクを差し出してきた殿の好意をありがたくいただく。もはやこの二人が何か企んでいたことは間違いないようだが、深く考えるのが面倒になってきたというのが、さっちゃーの気分だった。
「あれ、俺にはないの?」
「はい。」
「え、ホット?マジで?ホットの珈琲とか、わざわざ温めたの?ははは。」
「……どこにウケたの……。」
目の前で繰り広げられている茶番にもツッコミをいれることを諦めたさっちゃーは、スポーツドリンクを煽った。
―。
「失礼します。」
殿の先導で黒蟷螂の職員部屋に入ると、いつも通りの格好で黒蟷螂が椅子に座って扉に顔を向けていた。
「随分と珍しい組み合わせだね?」
まあ、座りなよ。と、勧められるままに思い思いの場所に腰かけた。
「昨日の全員参加の打ち合わせに出られなくてすいませんでした。」
「あ、俺も今から弁解するけど色々あったんだよねー。」
「……報告しに来ました。」
「うん、だよね。さしづめ、さっちゃー君のお仕事を二人で邪魔したのかな。」
違う?と、声こそ明るいが醸し出す雰囲気はどこか禍々しく、言い訳など許さないと暗に告げていた。
「穏やかじゃないなぁ。」
「……部隊の不利益になるようなことはしてません。……っていうか、はぎれさんの不利益になるような事はしないです。」
「ふーん、じゃあ二人でコソコソと、何してたのかな?」
二人への尋問の前にぜひとも報告を終わらせてしまいたかったさっちゃーは話せそうもない雰囲気に一人ため息をついた。
「私は政府側から取り引きを持ち掛けられてそれを利用してました。」
始まりは、あの日―。
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