第9話 さっちゃーという男

自殺部隊のメンバーは今は抜けたものも含めて、男7名、女3名、不明1名で構成されており、成長途中の若者が多いせいか、メンバーには小柄なものが多い。

そのなかで割りと大柄な男がさっちゃーだった。

大柄な体躯からは想像できない身軽さで、彼が主とする仕事は単独での情報収集。常にカメラを持ち歩き、自殺部隊にとって有益な情報を切り取ってくるのだった。

その情報収集能力に隠れがちだが、彼は運転ができるメンバーの中でも上位にはいる運転能力の高さを持ち、戦闘に関しても教師陣と肩を並べるほどの実力であった。

彼がいれば相手を押しやすい。そう評価されるような男だった。


「まじかー。」


そんな彼は疲れきった様子で愛車の運転席にもたれ掛かっていた。彼は元々疲れているときや充実したときなどに愛車の運転席に籠り、その日の事を思い返す癖があったが、今日はどちらかというと彼が手にした情報があまりにも大きく、抱え込めない問題であるためそうしているだけだった。


「あー、どうすっかなー。」


彼がここまで悩む原因となった事の発端は黒蟷螂と考え敵となっている政府の動向を調査しようと試みた事から始まった。





月も厚い雲に閉ざされた暗闇のなかは、悪いことをするのが好都合なように、さっちゃーが暗躍するにも好都合な夜であった。


「例の学校の―。」


電気配線関連の業者を装い入り込み設置した盗聴器の感度は良好、萩原の加工した盗聴器は室内に溶け込みバレる様子もなかった。

しばらく、機密情報と思われる内容を酒の勢いに任せてベラベラと話していく男たちの声を録音しながら文字にまとめていると、別の誰かがその部屋に入ってきたようだった。


「おぉ、君か!」


声の掛けられ方からすると話していた二人の男よりも若く、身分が低い者のようだが、今日の会合では参加者は二人と調べていたさっちゃーにとってはイレギュラーな客であり、人物の特定をしたいところだった。

―一言でもしゃべれば調べようがある。

そう、考えてさっちゃーは声に意識を集中させた。しかし、


「……えっ、は? ウソぉ!?」


仕掛けた盗聴器からの通信は途切れた。






―。

さっちゃーは盗聴器を仕掛けた店ので入り口が見える高層ビルの上にいた。

バレることを避けるため一つに絞った盗聴器は恐らく、三人目の客人によって壊された。つまり、こちら側が監視していたことは気づかれているということである。そのため、安全をとるならば速やかな撤退が望まれる……のだが。


「いやー、気になるよねー。誰だよ、後からきた奴。」


元々好奇心が強く、1度気になると止まらない彼は客人の姿を一目見るべく移動した上で待機することにしたのだった。


「おっ、きたきた。」


店のドアから出てきた男二人の顔は明るい。盗聴されていたことに気づいていないかのように。そして、その後から出てきた人影は、


「……珈琲先生?」


見慣れた高校の教師、自殺部隊No.0の男、珈琲だった。


「は、マジかぁ……。」


さっちゃーの呟きが屋上に響いたのも仕方がないことである。










―。


「はぁー、報告どうすっかな。」


珈琲先生が裏切っているか、どうなのか時間的余裕がない以上調べられそうもない。ただでさえ、危ういバランスの元で成り立っている今の自殺部隊のメンバーに、この事を伝えていいのか、さっちゃーは悩んでいた。


コンコン。


悩んでいたとしてもそこは外である。さっちゃーが必要以上に気を抜くことはない。ましては、この緊迫した状況のなかで。


「ばんはー。さっちゃーくん。ちょっとお話いいかな。」


それでもここまで近づいてきた珈琲先生に、さっちゃーの背中に嫌な汗が流れた。

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