第7話 夜会
二階の保健室から彼女にしては珍しく黒ずくめの格好で窓の外へ躍り出る。身軽に……とはいかないけれどなんとか怪我することなく外に出られたことに安堵のため息をついた。
「こんな真夜中に、良い子は寝る時間ですよねー。」
ほっとしたのもつかの間後ろから掛けられた声に一瞬身体を固くしたが、声の主を思い出して緊張を緩め気取られないように振り返った。
「子ども扱いしないでくれる?おにーちゃんの好みはもっと小さい子でしょ。」
不機嫌さは隠さない殿の言葉に能力のわりには常に緩んだ顔をしてる珈琲先生は腹を抱えて笑った。
「まー、そんな拗ねないでって。」
「拗ねてない、ばーか。」
普段ほとんど部隊におらず、生徒との関わりが薄い珈琲とそもそも全体的に人と関わりが薄い殿が校舎のなかで話していることはほとんどない。
むしろ珈琲は骨川やちひろ、ぴの字と仲がよく、殿はそれを遠巻きに生暖かい目で(主に関わると怪我しそうという理由から)見ていることが多かった。
その二人がこうして話しているのを部隊のメンバーが見たら、主にちひろや骨川あたりが「は?なに仲良くしてんの??」とツッコミを入れそうだが残念ながらこの場には二人以外誰もいなかった。
「で、なにしてんですかー、殿ちゃんは。」
「すごくイライラするから一度殴られてくれない??」
穏やかじゃないなぁと、笑いながら珈琲は殿の腕をつかみほとんど物音もさせずに校舎の影の部分に身を滑り込ませる。
「……珈琲先生が絡んでくるから見つかりそうになったじゃない。」
「いやいや、気づかれる前に隠れられたんだから感謝してよ。」
ため息をつきながら殿はポケットのなかから、USBを取り出し、そのまま珈琲のポケットにそれを滑り込ませた。
「珈琲先生がなかなか戻ってこないから、私に直接それを持ってこいってお達しがあったの。もう本当に時間がないみたいだね。」
「なるほどねぇ。」
二人はそれ以上なにも言葉を交わさず別れた。
「必ず守ってみせる。例えみんなから恨まれたとしても。」
殿の願いは誰かに聞かれることもなく白々しいほど明るい月に飲み込まれて消えた。
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