第2話 変化

 降り出した雨は息苦しさを連れて、強く窓を叩く。その雨をきっと誰もが嫌うけど、天邪鬼な殿は好きだった。そんな雨の中血を洗い流した車が武装高校の廃校舎へと入ってくる。待ち望んでいたエンジンの音が心地よく身体の中に流れてくる。

殿「あらまぁ、珍しいね。はぎれさんじゃなくてナルさんと蟷螂先生が負傷だなんて、さ。」

保健室でタオルを用意し待っていると、雨が降って気圧の変化に耐えられず青い顔をしている他は無傷の萩原と、右わき腹に創傷を負った黒蟷螂と、足を痛めたナルが入ってきた。

ナ「痛い。そして、気持ち悪い。」

黒「同感だ。」

殿「あー、うん、死ななくてよかったね…任務以外の死人は出てないよね?」

青い顔の萩原は死にそうな顔をしながらうなずくと身体を拭くのもほどほどに毛布の中に潜り込んだ。

殿「動けるようになったら声かけてね。着替え手伝ってあげるから。」

返事がない毛布の塊に話しかけると、殿は二人に向き合う。

殿「じゃあ、黒蟷螂先生からいこうか。」

黒「はははは、お手柔らかに、ね。」

ナ「血の気多い奴だけど今はだいぶ抜いてるから優しくしてやってくれよな。俺は少し寝る。」

殿「うん。ゆっくりあったまってて。もちろん、悪いようにはしないからさ。」

大切な仲間だからね、というセリフを口の中で転がす。自分も弱くなったものだ。今まで大切なものは萩原しかいなかったのに。随分と増えてしまった。

殿「それを人は時に強さと呼ぶけど、どうなんだろうねぇ。」

独り言はひび割れた壁だけが聞いていた。





萩「だいぶましになったー!」

朝になり雨が止み、明るくなった公舎に萩原の声が響く。結局あれから黒蟷螂の手当てとナルの手当てを終えても萩原は起きることなく、気を失った状態で殿に着替えさせられたのだが、そんな献身的な看病の甲斐あってか割と動ける程度になったようだった。

殿「お二人の気分はどうですか。」

黒「まあ、動けそうなくらいには大丈夫。」

ナ「悪くないっスよ。」

そんな言葉を聞きながら体温や血圧等々、基本的な数値を確認していると、ぴの字と珈琲が保健室に入ってきた。

ぴ「おはようございます、いきなりですがこれ見て貰えますか。」

いつも礼儀正しいぴの字が挨拶もほどほどにスマホの画面を四人に見せてくる。心なしか顔色も悪いようだ。

珈「体制存続の危機か、若いの命を物のように扱う猟奇的学び舎との深い関係。」

ゴシップ誌ではなく、新聞の一面を飾っていたのは教頭だった。

「は?」

そう息を小さく吐き出したのは果たしてその場の誰だったのか。

けれど言えることはただ一つ、状況は確実に悪化していた。

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