終焉 空白 創成
金魚殿
第1話 終焉の始まり
『時代に即した学問のあり方を!』
そう叫ばれ創られた武装公認高等学校。
略して武装高校は今、終わりを迎えようとしていた。
「いつだって弱いのは民衆であるわけだけども、民衆は衆である以上団結すれば国ひとつ、いや、歴史ひとつ簡単に変えてきたんだよね。」
今までも、これからも、と、ちひろはニヒルに笑う。
「これから、どうしましょうかね。」
ぴの字が呟く。
「どうも、こうも、今まで通りだろ。」
骨川が廃校舎の窓を開ける。
そこから見える空は汚く曇ったガラスがなくなり、白々しいほど青かった。
これから話すたった20日あまりの出来事で、私たちの学校は明日なくなるのだ。
遡ること、数週間。
骨「最近外野がうるさくないか?」
自慢の愛車で登校するなり機嫌の悪さを隠そうともしないで鞄を机に放り投げた骨川が周りに投げ掛ける。
ぴの「確かに、この間デートで学外出たけど、騒がしかったなぁ。」
ゲームをやりながら答えるぴの字もどこか不機嫌そうにボタンを押している。
いつも通りの日常の周りで蠢くものを感じる人はきっとそう多くはないだろう。だが、武装高校のとりわけ自殺部隊の面々はそうではない。
殿「当たり前よ、この記事見た?」
そういうと殿は愛用している深い青色のスマートフォンを操りとある記事を骨川の前に提示した。
さっちゃー「政権崩壊の危機か!?健全な青少年の育成を妨げる極悪非道のカリキュラム!闇深き武装高校の真実……!だったけ?」
心底うんざりしたような顔で見出しを諳じるさっちゃーは大きくため息をついた。
骨「スッゲー記事。最初の政治批判はともかく最後の方個人攻撃になってんじゃん……。」
殿「そう、しかも政治家だけじゃなく、うちの高校の教頭もやり玉にあがってるの。だから子どもの健全育成を守る会?みたいなのが学校舎外でデモ活動やらなんやらしてるわけ。」
はぎれとのおでかけをそれで潰された殿は彼女にしては珍しく声を荒らげながら言った。
さ「青少年の健全育成は結構なことだけど、のうのうと生きていけるほど綺麗な世界を作ってから理想を述べて欲しいところだよね。」
戦争こそしていないが日々争いが耐えないこの国を平和だと主張するのは今より50年ほど昔を生きているような老人ばかりだ。
一般人こそ重火器を禁止されているが、今は民間の警備会社には実弾の使用が許可されている。グローバル化とハイテク化の波はいつだって正義と悪のいたちごっこで高めあってしまう。今は追いかけてきた犯罪者側が有利な状況となり、この国でもテロ事件のようなことが起き始めていた。
珈琲「おーい、そろそろ授業?ホームルーム?始めっぞ。」
今任務で出かけている、黒蟷螂、ナル、萩原と、さぼりと思われるちひろ以外で行われるホームルーム。暑くなってきたというのに蝉の声さえ聞こえない静かな教室はいつになく重苦しい空気が立ち込めていた。
骨「あれ、リンリンは?」
殿「んー、なんか最近保健室にも寄り付かなくなってさ。今日は休みかな。」
珈「狂科からは連絡来てるから心配すんなー。」
ふーん。と、呟いた骨川が目を向けた窓の向こうに広がる曇天の空は今にも湛えた水を溢しそうな色をしていた。
萩原「雨降りそう...嫌だなあ...。」
ナル「倒れないでね...今日は殿連れてきてないんだから。」
萩「ん、大丈夫。その前に終わらせてくれるでしょ?」
ナル「チッ、当たり前だろ。」
自殺部隊の中にも相性の良し悪しがある。自殺部隊の中でも黒蟷螂、ナル、萩原で構成される三人の組み合わせは相性がよく、少人数で動くときはよくこの構成がとられていた。
ナ「おっと、愛しのダーリンからの合図だ行ってくる。」
萩「ふふふ、楽しんできてね。」
じきにここには
血の雨が降るのだろう。
ただそこには当たり前の日常があるだけ。
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