第61話《鯉ダンス》-七-
あたしの名前は大原トモミ。
小島ハツナのクラスメイトで親友の高校一年生だ。
ハツナと出会ったのは中学の時だ。
当時、中学に進級したら部活に入った方がカッコいいという風習がうちのクラスにあった。
全国大会に出場すれば一躍学校のヒーローになれる。みんなそれをバカみたいに信じて、こぞってやたら上下関係がきついクラブに入部する印象があった。
なんかイヤだった。
そういう風習があるのが。
体育会系のノリっていうか、親しくもないのに肩叩いて話しかけてきたりするのとか、スポーツやっている自分カッコイイだろ?っていう勘違いオーラ出してるのが、見てて痛々しかった。
「大原さんもバスケしようよ!」
中学に入学してからしばらく経った頃。
教室で一人でいるあたしに、同じ小学校でオタクだった女子が、馴れ馴れしく声をかけてくるようになった。
うざかった。
中学デビューを目指しているのかわからないけど、無理して背伸びしてる感じが伝わってくる。
「ごめん。あたし興味ないんだよね」
「そっか! 気が向いたらいってね!」
手を振ってその子はどこかに立ち去り、あたしみたいに一人でいる女子にまた声をかけていた。
女子バスケは部員集めのノルマが大変だとか聞いた気がする。
あの女。
自分じゃバスケ部に入ってイケイケになったと勘違いしてるみたいだけど、あとニヶ月経ったらどうなるか、簡単に想像できる。
ほんとバカだなぁ。
そう思えて仕方がない。
まぁ。
そうはいっても。
声かけてもらえるだけでも、ありがたいことだ。
ぶっちゃけ、当時のあたしはぼっちだった。
小学校の友達は、私立中学に進級してしまって、知り合いはクラスどこらか学年に一人もいなかった。
自分でいうのもなんだけど、結構ひねくれた性格しているし、友達作るのは下手だって自負してる。
でも、まさか。
中学生になってから、すぐぼっちになるなんて、予想してなかった。
これから、三年間。
ぼっちで過ごすのきついなぁ。
イジメられないようにどっかのグループ入らないと。
そうあたしは思った。
「大原さん、今日ヒマだったりする?」
ある日。
クラスの女子で一番背の高い女子。
小島ハツナがあたしに声をかけてきた。
「え? なんで?」
いきなりだった。
今まで喋ったことないのに話しかけてくるとか。
なんなんだこいつ。
「いや、帰りの方向一緒っぽいしさ」
は?
なんであたしがあんたと一緒に帰らないといけないの。
意味わかんないんだけど。
「忙しかったりする?」
「いや、暇だけど」
「じゃ帰ろ」
よくわからなけど、一緒に帰ることになった。
帰り道。
あたしとハツナは河川敷を並んで歩いた。
二人とも無言だった。
なんだこの時間。
そう思った。
ハツナは普段誰と喋っているのかあたしは知らない。
ちらっとだけ。
女子サッカー部の人たちと話しているところを見たことある。けど、仲が良いのかどうかはわからない。
っていうか。
どうしてあたし?
他にもっといるんじゃないの?
あたし以外で。
「なんか嫌だよね。あの雰囲気」
ハツナがつぶやくようにあたしにいった。
「部活部活っていうのがさ。なんかしんどいよね」
正直、意外だった。
バレー選手みたいな高身長でがっしりした体格の持ち主。
てっきり、ハツナもクラスにいるスポーツ大好きな連中と同じ、部活一筋のスポーツバカタイプだと思っていた。
「小島さん、部活入ってなかったけ?」
「ううん。頑張って断ってる」
「どうして?」
「やらされている感があるから、かな」
ハツナはいった。
あたしはそれを聞いて思った。
そうだ。
まさにそれ。
やらされてる感。
まわりがやってるからやる。
好きでもないことを、まわりがやってるからという安易な理由。
それに違和感を感じたし、不快感もあった。
「ほんというと、サッカーやりたいんだけどさ。無理して爽やかキャラ作らないといけないって思うと面倒なんだよね」
「ひょっとして、小島さんって根暗キャラ?」
「大原さんもでしょ?」
「あたしは違うよ」
「え! うそ! ぼっちなのに?」
うわぁ、はっきりいいやがった。
でも、不思議と悪い気はそんなにしない。
「大原さん。部活とか入る予定ある?」
「とくにないかな」
「じゃさ、帰宅部やらない? 帰宅部仲間募集してるんだよね、絶賛今」
ハツナがあたしに振り向く。
あたしは立ち止まり、ハツナを見つめた。
「あたしでいいの?」
「え、イヤ?」
嫌じゃない。
どうせ暇だし、まぁいいけど。
しかし。
変わった人だな。小島ハツナって。
こんなぼっちなあたしを誘うとか。
まぁ、悪い気はしない。
同じテンションだし、価値観も似てるから、話してて疲れない。
たまに遊ぶ相手だったりいいかも。
その時のあたしはそう思った。
それから数日後。
あたしたちは名前で呼び合う仲になっていた。
続く
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