第38話《アルバイト》


 あたしの名前は小島ハツナ。

 学校の備品を壊したということで、両親から一ヶ月のお小遣いなしを通告されてしまい、仕方なくアルバイトをはじめた高校一年生だ。


「580円です。ご利用ありがとうございます」


 二日前にはじめたコンビニのアルバイト。時給八〇〇円で、休日の夕方四時から八時までの四時間シフトは、思ったより悪くはない。

 駅前から離れた場所にあるコンビニだから、人の出入りもそこまで多くないし、結構ラクなバイトだったりして助かっている。


「ねえちゃん。シッタくれるか?」


 おじさんの客が、追加注文をしてきた。

 シッタ?

 なんだろ。シッタって。


「タバコだよ。シックススター」


 苛立った様子でおじさんが説明した。

 ああ、タバコか。

 略称でいわれてもわからないよ。高校生には。


「えと、これですか?」


 シックススターのロゴが描かれたタバコの箱をあたしは指差した。

 おじさんの眉間にシワが寄った。


「ボックスじゃない。ソフトだよ」


「ソフト? あの、どれですか?」


「もういいよ! 店長呼べ店長!」


 どんっ。

 おじさんがカウンターを拳で殴った。

 うわ、しまった。

 怒らせたら面倒なお客を怒らせてしまった。

 どうしよう。

 この場合、店長を呼べばいいのか。

 でも、店長って今休憩中だし、呼んでいいのかどうかわからない。

 だけど、このままじゃ収集つかないだろうし、どうすれば……。


「お客様。いかがされましたか?」


 事務室から休憩中の店長が出てきた。

 たぶん、店内の監視カメラを観て気づいた店長が、狼狽するあたしを見兼ねて出てくれたのだろう。


「あんたが店長?」


「はい。何か問題がありました?」


「あるよ! おたくのアルバイトどういう教育受けてるの? 全然ダメじゃないか!」


 興奮するおじさんが一気にまくし立ててきた。

 店長は頭を小さく何度も下げ、「はい」「ええ」と、相槌を打っている。


「どう責任取るんだよあんた!」


 おじさんがカウンターを指で叩いた。

 たしかにタバコの銘柄選びに手間取ったのはあたしで、怒りの原因があたしなのはわかる。

 だけど、責任って。

 いくらなんでも大袈裟すぎる。

 ……なんていえば、火に油を注ぐことは間違いない。

 あたしは口を挟まず黙っていた。


「わかりました」


 おもむろに店長が制服のジャンパーを脱ぐ。

 店長の裸の上半身には、縦方向にジッパーが付いていた。

 そのジッパーを開くと、中からむき出しの内臓が現れた。

 

「心臓と肺は無理ですが、まだ膵臓は残っているのでこれを売ってください。闇市の電話番号をお渡ししますので、それでお願いします」


 おじさんは青ざめ、絶句した。

 にこりと店長が微笑んだ。


「私でダメならこの子の内臓でどうでしょう? 今日からでも【蛆神様】にお願いすれば、すぐに《内臓の出し入れ》ができるようになるので」


 おじさんはかぶりを振り、その場を逃げるようにコンビニから立ち去った。


「小島さん。明日からお願いしたいことがあるんだけど、いいかな?」


 店長はあたしに振り向き、血色悪い顔色で訊いてきた。

 翌日。

 あたしはコンビニのアルバイトを辞めた。

 

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