第4話《性春》


 あたしの名前は小島ハツナ。

 最近、自分の身近で蛆神様による願いごと事故が多くなったことに正直うんざりしている高校一年生だ。


「ああ、セックスしてー」


 昼休憩の時間。教室ではでかい声で男子がなにやら卑猥な願望をぼやいてる。

 あいつ、たしか隣クラスの柴田だ。

 停学食らって学校でしばらく見かけないなと思っていたけど、最近復学してきたんだ。


「やりてーなー」


 教室にいる女子たちが白い目で柴田を見ている。

 いるよね、ああいうタイプって。

 不良系みたいな男子というか。なぜかいつも自信満々で先生たちや弱い生徒にはやたら態度が大きくて。そのくせ、自分より腕力がありそうな先輩には腰がすごい低かったりする。

 あまり関わり合いはしたくない人種だな。とあたしはいつも思ってる。


「マジでセックス気持ちいいぜ? おまえらもやってみ?」


 柴田はクラスの男子たちに絡みはじめた。

 クラスの男子たちは、周りを気にしてか愛想笑いで応対している。そりゃそうだよね。さすがに柴田と同レベルでノリノリだったら引くわ。

 だが、残念なことに柴田本人はその空気にまるで気づいていない様子で、「いや、マジだから!」と、しつこく絡んでくる。


「この前やらせてもらった奴とかすげぇー不細工だったけど、セックスすると超気持ちいいの! 生がいいよ! とくに生が!」


「ちょっと柴田くん! うるさいよ!」


 席を蹴りながらトモミが怒鳴った。

 びっくりした。

 あのトモミがキレるなんて。

 でも。

 いいぞ、トモミ。もっといえ。

 あたしを含めた女子全員が心の中でトモミに拍手する。

 最初、面食らって驚いていた柴田だったが、みるみる表情が怒りに歪んだ。


「なんだ? 大原。文句あるんか?」

 

「あるよ。ほんと、あんたいい加減にしなよ。みんな気分悪いんだよ? あんたのせいで。空気読めって」


 トモミ。すごいな。

 いうじゃん。今のあんたはクラスのどの男子よりも男前だよ。


「ハツナ。あんたもそう思うでしょ?」


「うん。そうだね」


 トモミが糾弾したことにより、教室の雰囲気が変わった。

 女子全員が柴田を堂々と睨んでいる。

 やっちまったな、柴田。

 そういいたげな眼差しで、男子たちは柴田を見つめている。

 完全に柴田は四面楚歌になった。

 しかし、柴田はそれでも逃げることなく「なんだよ!」と吠えた。


「いいじゃねぇか! 俺悪いこといってねぇじゃん! セックスが気持ちいいっていってるだけじゃん!」


 こういう相手に倫理観がどうのっていちいち説明するのも疲れる。

 こまったな。

 柴田が悪いのはわかっているけど、あまり追い込みすぎると何をしでかすかわかったものじゃない。

 先生を呼んだ方がいいかも。


「ったく面倒くせぇなー! お前らセックスしたことねーから俺を悪者にできんだろ? いいよ! お前らに教えてやるよ!」


 興奮する柴田は、教室にいるみんなに向けて指を指して吠え猛る。


「【蛆神様】だ! 蛆神様にお願いしてやるよ! この中の誰かとこれからセッーー……」


 突然、柴田の股間が爆発した。

 え?

 一体何が起こったか理解できず、クラスのみんなは呆然となった。


「い、いてぇ……」


 柴田はその場で悶絶しながら倒れた。

 しんと静まり返る教室内。

 ぼそぼそと呪文のような囁き声だけが聞こえる。

 声のする方を探すと、教室内の隅に固まっていた女子たちが何かをつぶやいていた。


「蛆神様。蛆神様……どうか《目の前にいる柴田の股間が爆発させてください》どうか柴田の股間を爆発させてください」


 女子たちが固く握っている紙がなんなのか、聞かずともあたしにはわかった。

 それにしても。


「先手必勝ね」


 トモミがつぶやくと、あたしは頭を縦に振った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る