第3話《宇宙一》


 あたしの名前は小島ハツナ。

 隣町に通う高校一年生だ。最近、コイ人の彼氏と結構うまくいってるらしいトモミからこんな話を聞かされた。


「あんたがマネージャーしてる陸上部にさ。武部って奴いるじゃん」

 

 武部というと、陸上部に入部した坊主頭の熱血馬鹿男子である。

 猪突猛進で一度思い込んだらまっすぐ突き進み、そして自爆するタイプ。筋トレもやりすぎて筋肉断裂したり、知らない相手に告白して断られたりとか。とにかく一生懸命頑張っているのは伝わってくるけど、はたから見れば完全に空回りしてる。そんな男子だ。

 そういえば最近見てないけど、どうしたのだろう。


「その武部がいってたの」


 二日前。武部は同じ陸上部の男子たちに公言した。


「宇宙一になってやる」


 聞くところによると、武部は宇宙一の速さで百メートルを走りきるという。


「九秒どころか五秒以内に百メートル走りきってやる!って、いってたんだって」


 目標を持つことはいいことだ。

 しかし、あまりに荒唐無稽な高い目標はいかがなものか。どうしてそんな人類史でも出したことのないタイムを出そうと意気込んでいるんだと仲間の陸上部が聞いてみた。

 武部は答えた。


「あんたにカッコつけたいんだって」


 は? あたし?

 どうして?

 トモミに聞いても「さぁ?」としか答えてくれず、とにかく武部は前からあたしことが好きで、自分に興味を持ってもらいたく宇宙一のタイムを出してやると息巻いたそうだ。


「その為なら、俺は神にも悪魔にも魂は売る覚悟はあるっていってたんだって」


 武部は皆にその決意の証拠として、陸上シューズのかかとを陸上部仲間に見せつけた。

 丸に毛が生えた記号。

 それがマジックで陸上シューズのかかとに描かれていた。


「蛆神様?」

「そう、蛆神様だって」


 翌日。

 武部の姿を見た者はいないという。


「武部は蛆神様に何をお願いしたのかな」

「さぁ」


 ふと、あたしはこの時、今朝の出来事を思い出した。

 一体誰の仕業か。校庭のトラックのど真ん中に、真っ黒い焼け跡ができていたそうだ。

 近所の悪ガキがロケット花火でイタズラしない限り出来ないような真っ黒い焼け跡だったらしい。学校では警察に相談するかどうか悩んでいるという噂だとか。


「まさかね」


 ちなみに宇宙最速といわれる光は秒速約三〇万キロメートル。地球を七回半できるそうだ。

 武部が無事ゴールできるように、あたしはひっそり祈ることにした。


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