第2話《恋人》


 あたしの名前は小島ハツナ。

 隣町の高校に通い始めてから、よく気持ちわるい記号を見るようになった高校一年生だ。


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 ※注意※

 この近辺での願いごとはご遠慮お願いします。

 願いごとによる事故等につきましては一切責任を負いません。

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 黄色いポスターにこの注意文言。

 そしておきまりの毛むくじゃらの丸記号。相変わらず気持ち悪い。

 たしか【蛆神様】だっけ?

 願いごとを叶える神様だって聞いている。

 こんな公園の前にも貼ってあるんだ。

 誰か剥がさないのかな。


「ううう! くそぉ!」


 嗚咽交じりの涙声が目の前から聞こえてきた。

 うわ、また?

 また変人登場?

 って、思ったら、涙声の正体はクラスメイトのトモミだった。


「トモミ?」


 鼻水ずるずる目が真っ赤か。

 公園の前で号泣に号泣を重ねた汚い泣き顔をさらしている。

 近所のおばさんや子供たちがどん引いた様子でトモミを眺めている。


「どしたの? なんかあった?」


 放っていおくわけにもいかず、トモミに声をかけた。

 あたしに気づいたトモミが、小走りで寄ってきた。


「ハツナ……聞いてよぉ」


 制服の袖を掴んで、トモミはあたしの胸に顔を押しつける。

 感極まってるな。気持ちはわからなくもない。

 そして、わざとじゃないのもわかる。

 でも、鼻水を制服につけないでくれ。たのむ。


「彼氏に振られたの」


「え? 田中くんと?」


 涙ぐみながらトモミは何度も頭を縦にふる。

 だから、鼻水は制服につけないでくれ。わかったから。


「あいつ浮気してたの……もうあたし悔しくて」


 学生鞄からあたしはポケットティッシュをトモミに手渡す。

 トモミは鼻をかんだ。あたしの制服のブラウスで。

 おまえ……。


「なんであたし……悪いことしてないのに!」


「まぁまぁ落ち着いて。話聞くよ。ファミレスでも行く?」


「落ち着けってどうやって?」


 あ、やば。

 面倒くさいスイッチ押してしまったか。


「いや、それは」


「ううう……欲しいよぉ《恋人が欲しい》よぉ……」


 トモミは独り言をぼやきながら、涙と鼻水でくしゃくしゃになっま顔をあたしのブラウスに埋める。

 早く帰って洗濯したい。

 そう思った。

 すると。


「ん? 臭っ!」


 魚の臭い

 なに? どうした。

 原因がなにかあたりを見渡して探していると、頭の上に影が落ちた。

 見上げてあたしは唖然となる。

 魚の顔をしたおじさんが立っていた。


「……」


 真っ白い鱗に赤色と黒色のまだら模様。あと口の左右には長い一本髭。

 このフォルム。

 わかった。

 鯉だ。


「コイ人……だね」


 蛆神様についてわかったことはふたつ。

 ひとつは、勝手に人の願望叶える迷惑な神様だということ。

 もうひとつ。

 結構聞き間違いしやすいことだ。


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