蛆神様

有本博親

【眼球ノ章】

第1話《かゆい》



 あたしの名前は小島ハツナ。

 今年、隣町の高校に入学した高校一年生だ。

 放課後。学校の帰り道で、あたしはたまたまこんな張り紙ポスターを見つけた。


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 ※注意※

 この近辺での願いごとはご遠慮お願いします。

 願いごとによる事故等につきましては一切責任を負いません。

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 なんだこれ。

 謎の注意文言以外に、丸にうじゃうじゃ毛が生えたマークが描かれている。

 きもい。意味わからないし、なんかめっちゃ怖いんだけど。


「お嬢さん。それは【蛆神様うじがみさま】よ」


 唐突に帽子をかぶったおばさんに声をかけられてびっくりした。

 とりあえずあたしが会釈すると、おばさんも会釈を返してくれた。


「うじがみさま?」


「そうよ。蛆神様は昔からこの土地に住まわれてるの。土地の人たちとともに暮らすことで土地を栄えてくれる神様なの」


 戸惑うあたしを放置して、突然、おばさんが解説を始める。

 なに? このおばさん。こわい。


「蛆神様は土地の人たちの味方なの。土地の人々の《願いごと》ならなんでも叶えてくれるのよ」


「そうなんですか?」


 おばさんは真面目な顔だった。

 やばい臭いがぷんぷんする。

 とりあえず、ここから逃げなくちゃまずいかも。


「本当のことよ?」


 おばさんがあたしの顔を覗き込む。

 近い近い。こっち来るな。


「最近私頭が痛くなることが増えてね。歳のせいかしら。とにかく頭の中が痒くてしょうがなかったの」


 帽子の上からおばさんは頭を掻きはじめる。

 頭の中が痒いって。

 病院だよ。


「蛆神様に《頭の中が痒くなるのが治りますように》ってお願いしたの」


 笑顔を浮かべて、おばさんは帽子を外す。


「本当、かゆいところに手が届くようになって嬉しかったわ」


 どくどくと脈打つ脳みそ。

 むき出しの自分の脳みそを、おばさんはぼりぼり指で掻きむしっている。


「あなたもお願いしたらどう? 頭スッキリするわよ」


 ぷるんぷるんと脳みそが揺れている。

 掻きむしった指先に半透明の液体が糸を引いていた。

 とりあえずあの手で触られたくない。

 少なくとも、あたしはそう思った。


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