主人公が自分の「復讐心」に疑問を持たないところが、この作品の重要で重大な部分で、おかげで最高に気持ち良く読める。
他人に対する恨みや、怒りを通り越した憎悪、復讐心は、全くの第三者に話した途端、相手への「許し」を勧められることが多い。
そんな空気のせいか、怒りの心持ちを打ち消す「許し」を自己に強いている場面が、日常には意識的にしろ無意識的にしろ無限にある。
事件の裏側を追うパート・アクションシーンの二つの緩急を純粋に楽しむ傍ら、根底には常に、「怒りや復讐心を持つ側へこその許し」が流れていて、感情を我慢しなくていいんだ、と素直に思わせてくれる。
復讐心は「許される」。
バトルの興奮、心根の解放、両方が満たされた。
美点である安心して興奮できる筆致には、新しい作家さんに見受けられる、不安定さゆえの脳への刺激はないかもしれない。
でも、読み手が日々の怒りや復讐心を許されるという経験が、落ち着きのある文体の、小説という形で受け取れたことは非常に幸せだった。
今後の作品も楽しみにしています。