月夜

満月の晩ボクは初めて外に出たんだ。昼間見つけた隠し通路を使って、屋敷の外に出たんだ。使用人達はボクが部屋に居ないことに気づいて居るかもしれない、そう思ってボクはひたすらに森の外を(未だ見たこともないその場所を)目指して、鬱蒼と生い茂る木々の間を走り抜けたんだ、足音も声も聞こえなかったけど、でも何かがボクを追いかけて来ている様な気配がして居たから。しばらく走っているとひらけた場所に出たんだ、突然ボクの周りを囲って居た木々がなくなって、月光があまりに眩しかったから、森を抜けたことには直ぐ気がついた。そこでボクは、ボクは彼女と出会ったんだ、そう、満月とちょうど彼女の頭が重なって、月が天使の輪のようだったんだ。彼女は白く細い長い髪と宝石の様にきらめく肌と、その輝きとは対照的な(だからこそ印象的な)、濁った冥府の色をした瞳を持っていた。彼女は、無言で左腕を持ち上げると、森の奥、ボクのきた道を指差したんだ。ボクは、彼女が指差す方向を見た、つられる様に顔を振り返らせた、けれどそこには何もなく、彼女が居た方向へ頭を回す、そこに彼女は居なかった。途端、雨が降り出したんだ、それはひどい雨だった、彼女が消えたことよりも、このままでは、抜け出したことがバレてしまう、反射的にボクは彼女が指した森に向かって引き返した。

「彼女が幻想だったのか、現実だったのか、それすら私にはわからないのだよ」


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