線と壁

ある時、僕は気づいたんだ。

この世界には、僕しかいないんだって。

でもこれは、気がつく少し前の話。


「最近、タイムラインでよく見るこれって何?」

「それはねー……」

友人達が僕の席でスマートフォンの画面を見せ合いながら話をしている。別にいつもの光景だ。何一つ変わることのない日常。

「おはよう」

僕は割って入るように机の上に荷物を置いた。

彼らは朝の挨拶を口にする。僕の席に我が物顔で座っていた親友は立ち上がり、椅子を空けた。僕は教室の壁に掛けられた時間割表に目をやり、1限目の授業を確認する。

おや。と思った。1限目には「英語」の文字。

「なあ。今日の英語って……」

僕の言葉に友人たちは、そろって哀れむような表情を浮かべた。一瞬の沈黙。破ったのは親友だった。

「よっしゃ! ほら言っただろ、今日は忘れるって」

先ほどの表情とは一転、勝ち誇った笑みを浮かべている。

「えー。なんで今日に限って忘れてくるのー」

そう言った幼馴染は、生徒手帳に何かを書き込んだ。先月唐突に始めた掛けだろう。なんでも、僕が宿題を忘れるかどうかを掛けているらしく、次のテストまでに負けた数が多い方が、相手の宿題を手伝うらしい。正直、僕を掛けに使わないでほしい。

「間に合うかな」

無駄な抗議をするのを諦め、僕は真っ白な教科書とノートを前に呟いた。

「写すか?」

見かねた友人は声をかけてくれた。

「いや、取り敢えず、できるとこまでやるよ」

そう言って、辞書アプリを起動し教科書の英文を訳していく。英語がそこまで苦手ではなかったから良かったものの。これが、古典とかだったら諦めて写していた気がする。


放課後の事だった。

友人達と帰ろうと学校の門を出ようとした時のことだった。何かにぶつかったのだ。先を歩いていた友人達は、振り返った。

「今凄い音したけど、大丈夫か?」

僕自身は何ともない。僕は、大丈夫だと答え家へと帰った。


翌朝、昨日と同じように教室に入る。友人達は昨日と同じように僕の席を占領していた。

同じように、時間割を確認し、同じように過ごす。少し違ったのは、授業を抜け出した、ひとけのないろうじゃでのことだった。

「 !」

親友に呼ばれた気がしたのだ。

僕は辺りを見回した。

当然、彼は居ない。途端、視界がぐらりと揺れた。



「反応はあるんですがね……」

胡散臭い目の前の男は、モニターを見ながらそう言った。

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