第38話あーなしゃけない

「次、探す?」


「いや、要らない。今日はそういう日じゃなかったってことだろう。」


8号線沿いに目をつけていたカー用品店は店休日だった。


「はやく宿に入って、やろう。」


「えっ、君からそんな言葉が出るなんて!まぁ、珍しい。」


「そうかい?んなぁーこたぁーないと思うけど。それよりも、宿の道は?

ナビは入れなくていいの?」



「このまま行けば金沢駅に着けるはずだし、駅まで行ければあとは大丈夫と思う。」


右と左のわからない女だったはずなのに!


「どんな宿なんだい?まさか内風呂は付いてないんだろ?」


「あー、でも、近くの系列店のサウナはタダ券もらえて入りに行けるみたいよ?

屋上天然温泉だって。」


「ほー、そりゃあいいね。けどやけに詳しいね?

みーちゃんはいつからそんなに段取りよしこちゃんになったのだろう?」


「てへっ、」

言ってわたしを真似てるかどうかは定かではないが、後頭部に手をやりへらへらしてみせる。

件の彼氏と泊まった宿かなにかなんだろう、でもわたしにはどうでもよかった。

思い出をめぐる旅なのだから。


「お墓参りは明日でいい?」


「あー、明日でも明後日でもいいよ、コップ酒とラッキーストライクのソフトパッケージを持っていくのさ。」

西村師はその著作でも書かれていた、コップ酒とラッキーストライクのソフトパッケージ、それにカルピスウォーターなぞを

供えてくれるようにと。


「車、泊めるところのめぼしはついてるのかね?」


「あー、ホテルの立駐が一泊千円だから大丈夫。」


「ふーん、えらい手際がよくなったんだな、え?みーちゃん。」


「てへぺろっ。」

言ってアッカンベーをのポーズで舌を出してくる。


「あっ!」


「なによ?急に?びっくりするから急に大きい声出さないでよ!」


「あっ、ごめん。」

心の底から申し訳ないと思った。

平生より、急な大きい音などが苦手なのだった、この美沙という女(ひと)、


「車、信楽のコンビニに放置したまんまだな、どうしよう?」


「なーんだ、それね。」

安どの表情を浮かべ、ドリンクホルダーからペットボトルをぬき、音を出さないがうまそうに飲む。

飲み干した空ボトルをわたしにさしむけてきて、

「あっこのコンビニのオーナーの板金屋に引き取ってもらって、今頃車検受けてるんでない?」


「車検?」

受け取った空のボトルを床に放る、というより力なく床に落としたというべきか。

まったくわけがわからない。


「君、ほら、いつもナンバープレートの裏にスペアキー張ってたじゃない?

だからあのひとに言って、引き取ってもらったのよ、板金屋に。しかも車検が来月だっていうし、

ついでだからそのまま車検に出してもらっておいたのよ。」

開いた口がふさがらないとはまさにこのことか・・・・。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る