第22話若戸章!Who are you?
「オラーイオラーイライライライ」
「あっ!」
ずさっ
ぐにゃりと鉄に何かがくい込む嫌な音、
ぷしゃっ、
トラックの排気ブレーキの音、
「馬鹿野郎!なんでちゃんと見ないんだ!!馬鹿たれぃ!!」
怒号、
バンッ、バンッ、
ドアを、力をめいっぱいこめて閉める音が二度、
ぷしゃっ、
また排気ブレーキの音、
ブンブンブン、アクセルの空ぶかし、
ブーン、ブーン、ブーーーーーーン、遠ざかるエンジン音。
目が覚めた、
床に敷かれたせんべい布団から起き上がる、毛布も枕もなし、背中が痛い。
周りを見回す。
何も無いがらんとした8畳程度の板張り、奥にむき出しになってトイレ、
その奥が唯一の窓らしい、遮光カーテンで厚く閉ざされてはいるが、隙間から差し込む光。
頭ががんがんする、二日酔いのそれっぽい。
「ハックションっ」
「ヴァー、」
鼻水が出た。
手の甲でぬぐう。
パンツ一丁で、わたしのものと思われる、半パンと花柄のアロハ風のシャツが
20cmほど向こうに放り投げられている。
トイレ、いまにも漏れそう。
足元がよろめきながら、シャツを羽織って便器へ向かう。
大量、
止まる気配がない。
体中の水分が全部放出されてしまいそうな気になる。
黒いカーテンを引いてみたが、そこは開かないよう、ロックされた曇りガラスの窓、
あくびが出た。
ようやく噴水状態のそれが止み、ぶるっと身震い。
「ハックションっ」
「ヴァー、」
またくしゃみ。
今度は鼻水は出ない。
水洗レバーを引くと、勢いよくザバーっと流れる。
節水タイプではないむかしのやつ。
踵を返し、背にしたせんべい布団へ戻り、どうするか迷ったがいちおう、っていうので
半パンを穿いてジッパーをあげてから、体育座りのかたちで腰をおろす。
まだ頭がガンガンする。
水がほしいがそういう類のものは転がっていない。
枕元、というか枕すらないのだが、頭を向けていたほうの、布団の下に
わたしのボディーバッグが転がっていたので、手をのばし弄る。
タバコ、
でも灰皿がない。
まぁいいや、弄ってポケット灰皿があるのを確かめてから着火、
3口ほど吸うと、頭の痛みがすこし治まったような気がしたが、
今度は嗚咽、
「ごほっごほっ、ヴェーっ」
何も出てはきやしない、ただ苦しいだけのやつ。
トントントン、そこでノックの音、暗くてよく見えなかったが
布団の足元のほうが、襖になっていてそっちからの音。
スーッと襖が開き、まぶしい朝陽が差し込んでくる。
逆光でよく見えないが、背の低い人影、影が中に入ってくる、
「おはようごじゃいましゅ。」
韓国か中国かの訛りのある、おばさんの声。
「おあようございます。」
何か言われるかもと思い、とっさにポケット灰皿で消火する。
「よく眠れましたか?」
せんべい布団の足元に正座した。
ようやく目がなれておばさんの顔が認識できた、50がらみ、
おかっぱのまっすぐな黒髪、人懐っこそうな顔で、わたしを見ている。
「たぶん。」
素っ気無い返事、何から話せばいいのやら迷って、体育座りのまま、
おばさんのほうへ向き直り
「ここ、どこです?」
訊いてみた、
しゃがれた声、パンクロッカーヴォーカルみたいな声になっている。
「おぼえてませんか?」
表情が硬くなったような気がする。
「チャンミの3階ですよ。」
「チャンミ?」
まったくわけがわからない。
「なんでここで寝ていたんだろう?」
「あなたはカンベさん。」
「はいっ、でもなんで名前を?」
「佐知子さん、呆れて帰らはりました。
そう、伝言で起きたら携帯のメール見るように言うてました。」
何かこう、記憶の糸に獲物がかかっているような気配はするが、
吊り上げてみたら、長靴だったときみたいな、ヒットが出ない感じ。
おばさんはため息をつき目を閉じ、首をゆっくり横にふり、
「何か食べますか?おかゆなら用意できてますから、2階へどうぞ。」
言って、すっと立ち上がり、襖を閉めて出て行ってしまった。
おかゆ、悪くない気がする、ぐるぐるぐるお腹が鳴る、
すぐに2階へ行って、事の経緯を確かめたい気になってきたが、
その前にもう1本、タバコ、
あらためて周囲を見回すと、奥のむきだしのトイレが、収監されたことはないですけれど、
留置所か刑務所のようにも見えた。
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