第21話さよならは何度でも
「サムゲタン、冷めちゃうよ?美味しいのに?
君、精つけたほうがいいんでない?」
”でない”とは、一体どこの方言だ?
「そういえば、佐知子さんって出身どこでした?」
「わたし?生まれも育ちもこっちだよ?でも大学は東京留学したよ?って、君、これさっきも聞いたわよね?
もしかして酔ってる?」
「あるいは。」
力なく首を縦に振るしかない。
マッコリをちゃんぽんしたのがよくなかったか。
わたしはいい加減、明日の仕事もあるため、そろそろ解放して欲しい旨、懇願したところ、
晩飯だけ付き合ってくれたら解放してやってもいいと渋々了解してくださり、D県、下京区の臼井佐知子のマンションを出て、タクシーを拾い山科へ出た。
チャンミ=韓国語で薔薇を意味する、韓国家庭料理の店で最期の晩餐、
「それはそうよね?あれだけ呑み続けてれば。」
スプーンで掬った薬膳スープ、潤んだ瞳、若干上目遣い、すすりながら、半分関心の念もこもっているように感じる。
自分でも関心する。
スプーンをわたしのほうへ差し向け、食べるよう勧めてくるが慌ててかぶりを振る。
色情ばばぁが、5回も行為に及び、未だわたしから搾り取ろうというのか?
まさか。
話題転換、
「そういや、件の信楽の店、名前とかはもう決まってるんですか?」
「決まってるわ。South&West Stones C-Nail」「なんですそれ?どんな意味を込めて?」
にっこり笑って、器を斜めに傾けて、最後の汁を掬おうとしている。
「本当に要らない?」
もう一度わたしに差し向けてくるが、再度かぶりをふり遠慮する。
残念そうに目を細め、自分の口へ運び、
「あー、美味しかった。」
満足げな笑み、
「その名前は誰が決めたんです?」
「藪から棒に何よ?あっ、そりゃあ、オーナーたる美沙ちゃんでしょ?
出資比率、10%程度ではネーミングライツはとれないわね。」
その名の由来、直截訊ねてはおもしろくない、ここは自力で解答を出さねばなるまい、
South&West Stones C-Nail
西のC、つまり、sea、Stones、それはオーナーたる、西海石につながるが、
南がつながらない・・・、南ってなんだろう?
みなみみなみみなみみなみみなみさうすさうすさうすさうすみなみさうすさうす・・・
呪文のように唱えてしまう。
しらずしらずのうちに声に出てしまっていたらしい。
「君、さっきから何をブツブツ言っているの?」
佐知子にたしなめられる。
そのとき、わたしの大脳新皮質に閃光、
それは南と西ではなく、南西、方角の南西だったのだ!
つまり、ここD県からみて南西の方角を意味するのは?
そう、熊本であり、件の美沙の元彼が居るらしい、熊本の地だ!
「そうか!そういうことだったのか!南の謎が解けました!」
「そこまでバレたならネタ明かし、降参。」
言って、ホールドアップ!鈍色のあれを突きつけられたかのように、ハンズアップのポーズを決める。
親指を立て人差し指を佐知子へ向ける。
「パキューン」
問答無用、言わんばかりに掌を広げわたしの顔の真ん前まで手を伸ばしてきたかと思えば、
差し向けた人差し指を包むようにして、ついぞ指を握りつぶそうとしてくる。
わたしはすっと腕をさげ、降参、
「そうよ?南多梨十奈(みなみだりそな)の南よ。」
ほぇ~~~?なんですと?
何その銀行?
「とりあえず、サウスサイドは当面その名の由来、南多梨十奈に任せようと思ってる。」
そこで言葉を切り、わたしのタバコへ手を伸ばしてくる。
「久々に吸いたくなっちゃった。一本もらうわよ?」
わたしのセブンスターのソフトパッケージから抜いてくわえさせてもやらない、火もつけてやらない。
吸いたいのなら、自分でつければいい。
わたしはその意思表示として腕組をする。
”任せよう”出資比率10%でよくも言えたものだな。え?
わたしが差し出す気のないことを察したのか、自分でソフトパッケージから一本抜き取り、
わたしの金のデュポンのライターで火をつけた。
目を細め吸い込んだと同時に目を閉じ、深呼吸。
深く吸い込んでから、目を閉じたままふーっとわたしの顔に吹きかける。
おまけに鼻からも少し白煙があがった。
ついに化けの皮がめくれる瞬間。
でも・・・鼻から煙を吐く姿すら優雅に見える。
なんなんだろう、この女(ひと)の魅力ったらありゃしまへんわ。
「濃いわね、このタバコ。」眉はひそめても、咽ることはない。
「君には当面、梨十奈の世話係をよろしくお願いします。」
急に平身低頭。
あんたはカメレオンですか?え?
「クラブ Pop 愛から引き抜いて、サウスサイド何をさせると思う?」
目は閉じたまま、もう一息吸い込み、さっきよりゆっくりと煙を吹きかけてくる。
「お察しのとおりよ。」
そこで言葉を切り、かっと目を見開く。
「京滋リアルエステートホールディングス 美容カンパニー 第二事業部長 神邊正純(かんべせいじゅん)34歳
本日を以て貴殿に違法本番ヘルス、店長の職を命じる。
因って、立日ソフトウェアは本日を以って解散!」
あまりにあっけない幕切れ、
「パキューン」
鈍色のそれをわたしに向けて撃った。
撃った、撃ちやがった!腹の辺りを撃ちやがった!
でも不思議と痛みはない。
衝撃で椅子から転げ落ちる。
でもほんとうに痛みはない。
腹の辺りに虫が止まったようなぞわっとする感覚を覚え触る。
赤黒いものがちょろちょろと吹き出ている。
指いっぱいに赤黒いものが付着する。
「な、なんじゃーこりゃぁ~~~!!」
椅子から転げ落ち、もはや立つ気力はない。
薄れ行く記憶。
これで大脳新皮質の痛みから解放されるのか。
ありがとう、その言葉が湧き出てくる。
というかそれしか出てこない、
声にならない声、目の前の空間に言葉として吐き出し、空気を振動させることができればいいが。
駄目だ、やはり駄目。
ノンノンノン、人間駄目と思ったらそこで終い、いいの?逝っていいの?逝くよ?逝くよ?
ありがとう!ただただ感謝しかない!
お母さん、産んでくれてありがとう。
でもこんな外道でごめんなさい。
でも仕方ないよね。
外道の子は外道、蛙の子は紅蜻蛉。
ブツン、何かが切れる音、わたしのアキレス腱は断裂した。
dead end
わたしの人生摘みました。
(罪増した。)
ご母堂様、大変申し訳ございません。
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